I'm dreaming of a white Christmas
僕は夢見ているんだ、ホワイト・クリスマスを

With every Christmas card I write
手書きのクリスマスカードの束を抱えながら

May your days be merry and bright
君の毎日がいつも明るく楽しいものでありますように

And may all your Christmases be white.
君のクリスマスが白銀の輝きとともにありますように
“White Christmas" Bing Crosby

■第九章(1998.December)2■

 ミユキと仲直りはできたものの、僕らの関係は完全に元通りとはいかなかった。具体的に言うと、ミユキが少し他人行儀になった。

 送り合うメールの内容はもともと色気も何もない漫画の話ばかりだったので、そこは変わらなかった。でもその話の流れの中で僕がさりげなくデートの誘いをかけてみても、 ミユキは応じてくれなくなった。「クボタさんやアオヤマさんも呼んでみんなでなら」という条件を出してくるところを見ると、僕と顔を合わせること自体が嫌になったというわけではない…と思う。一対一で会うことで僕に妙な期待をもうさせない、というのがおそらくミユキが引いたけじめの線なのだろう。ミユキがそう決めたのなら僕は黙ってそれに従うしかなかった。
 あるいはミユキはクボタにこれ以上僕との関係を誤解されたくない、と思って会うのをやめることにしたのかもしれない。僕だってミユキに誤解されたくないから、女の子のいるオフに出るのをやめたのだ。それと同じことだ。好きな人のためなら誰だってそうする。ミユキを責めることは誰にもできない。

 でもそれでも、僕にそれを言う資格がないことはわかっていても、僕はミユキに「クボタはやめておけ」と言いたかった。
 僕を選んでくれないのはもう仕方ない。僕の代わりにちゃんとミユキを守り、幸せを与えてあげられる男を選んでくれるならば、僕だって潔く身を引こう。むしろ恋の成就のため積極的に動いてやったっていい。でもクボタだけは駄目だ。クボタは身を引く相手としては最悪の男だからだ。
 クボタは確かに女の子に優しい。一緒にいて居心地が良いだろうことは僕にもわかる。でもその優しさがミユキ一人のために注がれるようになる日が来る確率は、たぶん宇宙人が地球に攻めてくる確率よりずっと低いだろう。ミユキはこのままどこまでいっても永遠に、クボタにとっての特別にはなれない。取り巻きの女の子のうちの一人、以上の存在には決してなれない。
 ミユキはそれでもいいと言った。時々会って遊んでもらえるくらいの幸せが自分には分相応なのだ、と言った。でもそれでは僕が納得できなかった。ミユキ本人の意思なんてこの際もう関係ない。誰が何と言おうがミユキは好きな男ときちんと男女として結ばれ、めいっぱい幸せになるべきなのだ。僕がそう決めたのだ。そのためなら僕はなんだってする。必要とあらばクボタと刺し違えたっていい。それでミユキの心からクボタの存在を消せるなら、僕の命なんて安いものだ。


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