I'm dreaming of a white Christmas
僕は夢見ているんだ、ホワイト・クリスマスを

With every Christmas card I write
手書きのクリスマスカードの束を抱えながら

May your days be merry and bright
君の毎日がいつも明るく楽しいものでありますように

And may all your Christmases be white.
君のクリスマスが白銀の輝きとともにありますように
“White Christmas" Bing Crosby

■第九章(1998.December)1■

 「細木の部屋」の閉鎖によって日記系界隈は登竜門的な場所を失いはしたが、Windows98とISDNの爆発的普及に伴い新たに開設される個人ホームページの数は倍々ゲームのごとく増殖を続ける一方だった。我らが日記系はまさにカンブリア爆発とでもいうべき、最初の黄金期を迎えていた。来客数が一日千人に迫るようなモンスターサイトも少しずつ増え始めていて、僕のサイトのような数十人程度の規模では「中堅」とも呼ばれなくなりつつあった。周りの文化がどんどん成長を続けているというのに、僕と僕のサイトだけはいつまでも同じところで足踏みを続けている気がした。 まあ足踏みだろうが匍匐前進だろうがムーンウォークだろうが、究極のところ暇さえ潰せれば僕にはどうでもいいことではあったのだが。


 アオヤマのサイトは相変わらず破竹の勢いでアクセス数を伸ばし続けていた。今や一日七百ヒット、もはや超大手と呼んでもなんら差し支えないほどの位置にまであっという間に登り詰めてしまった。同じ日記サイト管理人たちの間でもアオヤマのサイトは評価が高かった。後進からのリスペクトもたくさん受けていた。
 しかしそのサイトの成長と反比例するように、アオヤマのレビューの量と質は昔に比べ明らかに低下していた。今まで毎日書いていたゲーム日記は今や週に一度更新があるかないかになってしまった。

 久しぶりに会ったアオヤマは以前にも増してがりがりに痩せこけていた。目の下にはクレヨンで線を引いたような色濃いクマができていた。まるで睡眠障害の症例写真を見せられているような気分だった。
「お前どうしたんだよ、バイオハザードのゾンビみたいなことになってるぞ」
 僕は若干引き気味に言った。
「え? ああ…最近深夜のガードマンのバイトも始めたんだ。あんまり寝る暇がなくて」
 このゾンビがガードマンか。まだ番犬でも繋いでおいたほうが、吼える元気があるだけ役に立ちそうだ。
「そんな無理して金貯めてどうすんだよ。またゲームか?」
「いや…ミカちゃんが」
 アオヤマがゆらゆらと揺れながら笑った。まるで酔拳だ。
「ぷららだかプラザだかいう鞄が欲しいって言ってて。手持ちじゃ全然足りないんだ」
 たぶんプラダのことを言ってるんだろうが、あえて訂正はしないでおいた。
「金がないなら断ればいいじゃないか」
「断る?」
 アオヤマが不気味な眼光で睨みつけてきたので僕は思わず身震いした。
「ボクに…いや、ボクら非モテに、女の子のお願いを断る権利があるとでも?」
「い、いえ…ない、です」
「そう。わかってるならいいんだ」
 アオヤマはにっこりと微笑んだ。「じゃボク、これからまたバイトだから。よかったらユキオも来る? 新しい風邪薬の実験だって。薬飲んで二、三日検査されるだけで五万円だよ。美味しいよ」
「い、いや、いいよ。遠慮しとく」
「そっか」
 アオヤマは寂しそうに去っていった。なるほど、この調子では新しいゲームを買う金も遊ぶ時間もなさそうだ。


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