Desperado, why don't you come to your senses?
ならず者よ、そろそろ君も目を覚ましたらどうだい

Come down from your fences, open the gate
フェンスの上から降りてきて、扉を開けるんだ

It may be rainin', but there's a rainbow above you
雨が降ったってその分綺麗な虹が見れるさ

You better let somebody love you, before it's too late.
誰かに愛してもらうんだよ、全て手遅れになるその前に
“Desperado" The Eagles

■第7章(1998.December)3■

 約一時間後に水族館から出てきた細木とタクヤ君はそのまま公園を横切り湾岸の大通りに出て、荒川河口橋を渡り始めた。僕とミカはその後ろ姿と百メートルほどの距離を保ったまま、慎重に尾行を開始した。
 なにしろ巨大な河口をまっすぐ一直線に跨いでいる橋の上だ、いざというとき身を隠すような場所はどこにもない。振り返られたら確実に視界に捉えられてしまう。そのとき僕かミカ、どちらかが少しでも不審な動きを見せたら一発で作戦終了だ。一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。

「タクヤ君は芸能人でいうとどんなタイプが好きですか?」
 細木は一人で嬉しそうに気持ちの悪い質問をタクヤ君に次々ぶつけていた。
「ええと…後藤真希とか…」
「女性ではなく、男性で」
「男性? 男性と言われても…堂本剛とかはかっこいいと思いますけど」
「そうですか。私は光一君のほうが好きです。おや、そういえばタクヤ君、どことなく光一君に似ていませんか?」
「に、似てないです。やめてください、頬を触るの」
「おっと、これは失礼しました。細木でした」
 万事がこの調子で、細木はかなり際どいラインのセクハラを何度も行ない、何度も気持ちの悪い口説き文句を吐いていた。一応全ての発言を録音しているので、このレコーダーの記録だけでも懲らしめるくらいのことはできるだろう。ただやはりとどめを刺すには、決定的な台詞。「おすすめ評価をつけてやるから、抱かせろ」という具体的な誘いの言葉が、どうしても必要だった。

 ちょうど京葉線一駅分を歩き西の空に沈む夕日が波間を黄金色に染め始めようとする頃になって、細木とタクヤ君は新木場駅前から明治通り沿いに続く夢の島公園の中に入っていった。熱帯植物園に向かう途中のベンチに二人が腰を下ろしたので、僕らは背後の植え込みの中に隠れて様子を見守ることにした。ベンチは辺りにたくさんあったが、なぜか全て満席だった。何か近くでアイドルのイベントでもあったのかそれとも偶然なのか、座っているのは全員男性だった。
「評価の話ですが」
 細木が唐突に切り出した。僕らは思わず茂みから身を乗り出した。
「実は今日は、君のページの評価のことでお呼び出ししたわけではないのです。君のページはすでにおすすめとする予定です。文句のつけようもありません。素晴らしいの一言です」
 それはクエマツさんが一時間くらいで適当にでっちあげた、中身なんてほとんど何も書いていないただのダミーページなのだが。本当にいい加減なものだ、と僕は心の中で突っ込んだ。

「今日は逆に、あ、あなたに、わ、私の体を評価していた、いただきたいとお、思いまして」

 細木の息が荒くなってきた。細木はタクヤ君のワイシャツのボタンに手をかけた。


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