Desperado, why don't you come to your senses?
ならず者よ、そろそろ君も目を覚ましたらどうだい

Come down from your fences, open the gate
フェンスの上から降りてきて、扉を開けるんだ

It may be rainin', but there's a rainbow above you
雨が降ったってその分綺麗な虹が見れるさ

You better let somebody love you, before it's too late.
誰かに愛してもらうんだよ、全て手遅れになるその前に
“Desperado" The Eagles

■第7章(1998.December)2■

 細木とタクヤ君が葛西臨海水族園のガラスドームの中に入っていったので、僕らは無理に後を追わず出口を見張れる場所で隠れ待つことにした。出口は一つしかないし辺りの見通しも良好なので、戻ってくる二人を見落とすことはまず考えられなかった。とりあえずしばらくは小休止だ。
 ベンチで休んでいる間に、アオヤマが気をきかせて缶コーヒーを買ってきてくれた。開いたプルタブから真っ白な湯気が立ち上り、冷え切った頬によく染みた。広場のほうには相変わらず人の気配はなかったが、代わりに巨大な資材を積んだ大型トラックが忙しく行き交っていた。なんでもここに世界一大きな観覧車を造る計画があるらしい。こんな寂れた野原の真ん中にいきなり巨大観覧車なんて、そんな華やかなものが建つイメージが僕にはどうしても浮かばなかった。
「それにしてもなんで水族館なのかな? 意味わかんない」
 ミカが退屈そうな声で言った。僕にしてみればこの寒いのに生足を惜しげもなく晒して平気でいるミカだって、意味わかんないといえば意味わかんない存在ではあった。
「魚を見ると興奮するとか、そういう種類の変態なんじゃないの」と僕は適当な返事をした。
「え〜、そんな人いるんですかぁ?」
「そりゃいるよ。人の性癖世界は海より深いんだ」
「それってなんか、格言っぽくてかっこいいですね」
 僕らがそんなどうでもいい会話を続けていると、クエマツさんに怒られてしまった。
「ちょっと静かにしてくれないかな。いま細木が喋っているところなんだ」
「す、すみません」
 僕とミカは慌ててイヤホンを付け直した。ノイズがひどかったが、内容はなんとか聞き取れた。

「タクヤ君、手を見せて欲しいのではないでしょうか」
「あ、あの、何を…」タクヤ君の戸惑いの声が聞こえた。
「おや、ご存知ありませんでしたか? 私は手相占いの心得もあるんですよ。うん、これは良い手相ですね。将来大物になると出ています」
「ご存知あるわけねえだろ」クエマツさんが苛立ちのこもった声で言った。
「では行きましょうか」とまた細木の声。
「あの、手を…」
「おや、これは失礼。ふふ…意外と初心(うぶ)なのですね、タクヤ君は」
 初心とかそういう問題じゃないのではないかと思ったが、周りの全員が苦虫を噛み潰したような同じ表情をしていたので僕は何も言わずそのまま黙った。皆考えていることは一緒のようだ。


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