Unchain my heart
鎖を外してくれ

Baby let me go
僕を自由にしてくれ

Unchain my heart
僕の心を縛り付けないでくれ

Cause you don't love me no more.
君がもう僕を愛していないのなら
“Unchain my heart" Ray Charles

■第六章(1998.Nobember)3■

 勤労福祉会館の洋室にはすでに五十人近い男たちが集まり、静かに会議の始まりを待っていた。みな悲壮な顔つきだった。

「では第三回、打倒細木帝国決起会を始めます」
 司会のクエマツさんが壇上に立ち、マイクで挨拶した。誰も拍手一つしない。空気が異常に重かった。
「直近の犯行…細木曰く『レクリエーション』の開催は先週の土曜日。確認できているだけで三名の犠牲者が出ています。今まではだいたい二ヶ月に一度程度のペースでしたが、前々回が9/12、前回が10/24、今回が11/7とだんだん周期が短くなってきています。まさに手当たり次第、といった様子です」
 後ろの席の男がぽつりと「秋だからかな」と呟いたが、なぜ秋だから周期が短くなるのかの因果関係は僕にはわからなかった。
「なお前回、細木に心を壊され入院療養中の倉沢氏のその後ですが…依然として良くありません。毎晩のように脂汗を掻いて魘されているとのことです。この件で倉沢氏のご両親が細木に問い合わせたところ、奴はいつものように『心当たりがないのではないでしょうか。細木でした』と言って逃げたそうです」
「なんて奴だ」「まさに鬼畜だな」
 辺りがざわめいた。アオヤマが隣の席でわなわなと震えていた。倉沢さんがそんな大変なことになっていたなんて、今の今まで僕は知らなかった。
「法で裁けぬならば」クエマツさんが手を叩いて場を静めた。「我々の手で! あの男に直接、裁きを下してやろうじゃありませんか」
 周りの男達が突然立ち上がり、「そうだ!」「裁きを!」「鉄槌を!」とシュプレヒコールを上げ始めた。僕はびっくりして飛び上がってしまったが、周りが全員立っていたので結果的に恥をかかずに済んだ。
「ここで一人、我々の作戦に協力を申し出てくれた若者を紹介します。倉沢タクヤ君です。入院中の我らが同胞、倉沢氏の弟さんだそうです」
 壇上に一人の美少年が登り、拍手が起きた。
「拓也です。ぼくはインターネットのことはあまりよくわからないのですが…兄を廃人同然の状態まで追い込んだその細木という男を、ぼくは許せません。 皆さんがお力を貸してくださると聞きました。よろしくお願いします」


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