Still I'm waiting for the morning
僕はまだ、朝が来るのを待ち続けている

But it feels so far away
でもそれはどこかずっと遠くにあるように感じるよ

And you don't need the love I'm giving
君が僕の愛を必要としてくれないから

So tomorrow is today.
だからそう、明日も今日と何も変わりはしないのさ
“Tomorrow is today" Billy Joel

■第五章(1998.Nobember)3■

 実を言うと、僕には結構自信があった。クボタの言う通り、毎日メール交換して、時々デートをする関係というのはもう実質的につきあっているも同然だと内心思っていたからだ。 後は確認作業としての告白を済ませてしまえばいいだけだ。そのハードルさえ乗り越えてしまえば、僕らの前には薔薇色の未来が待っている。そんな風に気楽に考えていた。
 だから僕はあえて決戦の舞台は仰々しいデートスポットではなく、ミユキの地元のいつものミスタードーナッツというフランクな場所を選んだ。ドラマチックな演出はいらない。シンプルな確認の言葉だけで、自然に友達から恋人へとスライドできればいい。「僕はモテないんだよ」「そんなことないよ」「じゃあミユキがつきあって」「いいよ」、これだけでいい。このくらいなら僕でもなんとか話を導いていけるはずだ。 もし途中で雲行きが怪しくなれば「冗談冗談」と言って逃げてしまえば、せめて今の友達という関係だけは崩さずにいられるだろう…そう思っていた。

 バイト帰りのミユキをストーカーよろしく待ち構え、無理やり捕まえてきた僕はいつもの漫画談義で場を暖めながら話の流れの中でできるだけ自然に、自分がいかにモテないかを切々と語った。もうホームページを開いて半年になるけれど、未だに一度も女の子から掲示板に書き込みをしてもらったことがない。もしかしたらミユキ以外には女の子なんて一人も見ていないのかもしれない、と。喋っていて本当に暗い気持ちになってきたが事前の予想通り、ミユキは身を乗り出して「そんなことないよ」と言ってくれた。

「ユキオ君の漫画レビューは何かストイックっていうか、女子供が気軽に踏み込むのを許さないって雰囲気あるじゃない? だから女の子は見てないんじゃなくて、ただ接触を控えてるだけだと思うよ」
「そんな雰囲気あるかなあ」
 僕は首をひねった。相変わらずミユキの意見は喜んでいいのか悲しんでいいのか、微妙な線を突いてくる。
「でもそういう姿勢に好感を持ってる女の子はきっといるよ。わたしがそうだもん」
 ミユキは無邪気に笑った。「ユキオ君はきっといつかモテモテになるよ。わたしが保証する」
「でも今のところ、ちやほやしてくれるのは君だけだ」
「うん、だから、わたしは今のうちかまってもらおうと思って。手の届かないところにいっちゃうその前に」
「行かないよ」
 ミユキは首を振った。「ううん。私にはわかるの」
「行かないよ。僕はどこにも行かない。僕は君といるほうがずっと楽しい」
 ここまでは完全に読み通り。勝負はここからだ。僕は唾を飲んで言葉を続けた。
「君さえよければ、ずっと僕のそばにいてほしい。それはつまり…」
 一番肝心なところで言葉に詰まってしまった。こういう土壇場となるとどうしても経験不足が露呈してしまう。緊張で手のひらが異常に汗ばんでいくのがわかった。僕は一度深呼吸し、一文字ずつリズムを刻むように言葉を続けた。
「それはつまり、僕は…その、君に、僕と…その、付き合」
「ユキオ君、わたしね」ミユキは僕の最後の一言を遮るように、強い口調で言った。

「わたしね、クボタさんのことが好きなの」


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