Still I'm waiting for the morning
僕はまだ、朝が来るのを待ち続けている

But it feels so far away
でもそれはどこかずっと遠くにあるように感じるよ

And you don't need the love I'm giving
君が僕の愛を必要としてくれないから

So tomorrow is today.
だからそう、明日も今日と何も変わりはしないのさ
“Tomorrow is today" Billy Joel

■第五章(1998.Nobember)1■

 「細木の部屋」で今月のNo,1として紹介された威力はやはり絶大だったようで、その日を境にアオヤマのサイトのアクセス数は一気に激増した。今や一日300ヒット、押しも押されぬ大手サイトだ。閑古鳥の鳴いていた掲示板にもいきなり書き込みが殺到し、 夜11時を回ったテレホタイムには404エラーで繋がらない状態が多々見られるようになった。それでも律儀なアオヤマは何十という書き込みの全てに毎日レスをつけ続けていて、その読者を大切にする姿勢がアオヤマ個人の評価をさらに押し上げていた。
 アオヤマが出世したことは僕にとっては寂しくも羨ましくもあったが、でもそれ以上に祝福の気持ちのほうが強くあった。僕は誰よりもアオヤマの書くレビューの面白さを認めていた。その面白さがようやく世間に正しく評価されたことが、自分のことのように嬉しかったのだ。
 アオヤマのリンクのおかげで僕のサイトの読者も少しだけ増えた。増えたといっても一日20人が40人程度になっただけで、相変わらず弱小なのには変わりない。でも前進は前進だ。新規に掲示板やメールで感想を書いてくれる人もぽつぽつ現れ始めてくれていた。特に「読む漫画の幅が広がりましたね。以前は偏ってるなあと思いましたが、今は良い感じです」という評価をもらえたのが、僕としては一番嬉しかった。なぜならその変化はミユキとの出会いによってもたらされた変化だったからだ。好きな女の子のために頑張ったことが形となって知らない誰かに評価してもらえるなんて、こんな素敵なことは他にそうあるもんじゃない。


 週末に僕とミユキは上野動物園を訪れた。いつものメールの漫画談義の中でミユキが「らんま1/2のパンダが好き」と書いてきたのを受け「じゃあ実物を見に行こう」と僕が強引に誘い出す形で実現した、今度こそは正真正銘の一対一デートだった。
 ちょうど紅葉が鮮やかに色づく季節で、園内は人で溢れかえっていた。お目当てのパンダは昼寝中なのかほとんど動いてくれなかったが、人垣の隙間からなんとか覗き見ることができてミユキは満足そうだった。僕らは動物園をのんびり一周し、不忍池の参道の出店でリンゴ飴とたこ焼きを買い、水辺を漂うボートや鴨の群れを眺めながら食べた。アメ横の闇市のような怪しい雰囲気の商店街をあちこち練り歩き、最後に御徒町の駅から電車で神田に向かい神保町の古本屋通りで漫画を探した。
 ミユキが真剣な顔で本棚を見つめている隣で、僕はずっとミユキの横顔を覗き見ていた。漫画探しなんて今は興味がなかった。一分一秒でも長く、ミユキの隣でミユキと同じ時間を共有する。今の僕はそのためだけに生きている、と言ってもいいくらいだった。

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