Close the window, calm the light
窓を閉めて、光を静めて

And it will be alright, no need to bother now
それでもう大丈夫、何も心配することはないよ

Let it out, let it all begin
何もかも捨ててしまおう、また始めからやり直せばいい

All's forgotten now, We're all alone.
いま全ては忘れ去られ、僕らは皆ひとりぼっちだ
"We're all alone" Boz Scaggs

■第十八章(1999.February)5■

 次の日の朝のニュースで、万世橋の事件についてが取り上げられていた。
 画面隅のキャッチには「白昼の刺殺事件、犯人はその場で自殺」と書いてあった。当たり前だが容疑者と被害者の名前は「アオヤマ」「クボタ」ではなく、「青山――」「久保田――」という彼らの本名になっていた。それらは僕の全然知らない人間の名前のように聞こえた。
 司会者とコメンテーターの会話は予想通り、「ハンドルネームで呼び合う薄い友達関係が…」「匿名の危険性をもっと世間が…」といった、いかにもな批判意見に終始していた。僕はあまりの怒りにまた気分が悪くなってきて、布団に戻って枕をつかんで泣いた。お前達にクボタとアオヤマの何がわかるっていうんだ。俺達の何がわかるっていうんだ。
 ハンドルネームだけの関係? それの何が悪いっていうんだ。確かに僕はアオヤマの本名もクボタの本名も、ミユキの本名すらも知らなかった。そのことを笑われるのならば、それはまあ仕方ない。でもだからといって僕らの友情や愛情が偽物だったなんてこと、そんなこと他人に言われる筋合いは絶対にない。僕は彼らのことが大好きだったのだ。愛していたのだ。その気持ちまでもが嘘だというのなら、僕らが出会い過ごした時間までもが偽物だというのなら、この世界に本物なんてものは一つだってあるはずがない。僕らが偽物ならお前達だって偽物だ。全員まとめて偽物のクズだ。自覚がないだけ僕らよりもずっと性質の悪い、最悪の糞野郎共だ。

 ひとしきり泣いた後で僕はまた激しい自己嫌悪と後悔に襲われた。
 結局僕は誰一人として救えず、僕に関わってくれたあらゆる人間を不幸にしてしまった。もっとアオヤマの話をじっくり聞いてやっていれば良かった。もっとクボタに辛抱強く説教しておけば良かった。もっとミユキから目を離さずに大事に支えてやっていれば良かった。僕の努力次第で、全ての不幸は未然に防げたかもしれなかったのだ。
 こんなことになってしまった後でいまさら気がついたって、もう遅かった。僕は彼らを見殺しにしたも同然なのだ。この罪は一生かけても償いきれるものではない。僕はきっと地獄に落ちる。僕はきっとミユキと同じところへはもう行けない。


「さよなら、ユキオ。一足先に向こうで待ってるよ」

 アオヤマのその最後の言葉が、黴のように頭にこびりついて離れてくれなかった。


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