Close the window, calm the light
窓を閉めて、光を静めて

And it will be alright, no need to bother now
それでもう大丈夫、何も心配することはないよ

Let it out, let it all begin
何もかも捨ててしまおう、また始めからやり直せばいい

All's forgotten now, We're all alone.
いま全ては忘れ去られ、僕らは皆ひとりぼっちだ
"We're all alone" Boz Scaggs

■第十八章(1999.February)4■

 目が覚めると僕は万世橋署医務室のベッドの上にいた。
 起きてすぐに婦人警官二人に挨拶され、事件についての調書を取られた。言葉遣いこそ丁寧ではあったが、内容はひどいものだった。 幸い目撃者が多かったおかげか犯人扱いだけはされずに済んでいるようだったが、まだ共犯ないしは殺人示唆の線を捨てたわけではない。そういう調べ方だった。
 まあ無理もない、僕は二人の友人でありしかも犯行の現場に居合わせていた、これ以上はありえないというほどの重要関係者なのだ。むしろ疑われないほうがおかしい。おそらくは僕がこういう状況に置かれることも、アオヤマの復讐計画のシナリオには最初から入っていたのだろう。そのことが僕を絶望のどん底のさらに底へと突き落としてくれた。
 僕は情け容赦ない警官の質問攻撃によってアオヤマが喉を切るあの悪夢のような場面を何度も思い出させられ、何度も吐いた。ようやく解放されたのは僕が四度目にトイレに駆けこんだ後だった。
 親に連絡しようかと言われたので、僕はそれだけはやめてくれと慌てて無理やりに立ち上がってみせた。体調は最悪、立っているのがやっとという状態だったが、それでも親を呼ばれて余計な心配をかけさせてしまうくらいなら道端で倒れたほうがまだましだった。後でまた取り調べが必要になったなら携帯に連絡くれたらいつでも出頭し協力する、だから今日のところはとりあえず家に帰してほしい。そう懇願しなんとか釈放された。帰り際に僕が着ていた血染めのコートを持って帰るかどうするか訊かれたが、処分してくれとお願いした。 たとえクリーニングで血は洗い落とせたとしても、記憶まで消すことができるわけじゃない。

 外はもう薄闇に包まれていた。雨こそもう上がってはいたが、濡れたコンクリートがまるで冷蔵庫のように足元から体温を奪っていった。おまけに僕はコートを着ていなかった。歯をがちがち鳴らしながら、それでも頭は奇妙に熱を持ったままの最悪の体調を引きずり岐路についた。家に帰って体温計で計ってみたら、案の定熱が出ていた。這うようにしてシャワーだけは浴び、シャツを何枚も重ね着してベッドに飛び込んだ瞬間に僕は眠りに落ちた。


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