You say you want a leader 自分を導いてくれる人を求めているんだね But you can't seem to make up your mind でも君はまだ決心がつかずにいるみたい I think you better close it こんなことはもうやめにしようよ And let me guide you to the purple rain. 僕についておいで、この紫の雨の中まで “ Purple Rain" Prince |
■第十五章(1999.January)3■「ふられました」 僕はこのメールを300回くらい読み返した後で、念の為メモ帳にコピーペーストしHDDのあちこちにばらまくように保存をかけた。今が深夜でなければ喉が枯れるまで叫んでいただろう。沸き上がる喜びに脳の処理が追いつかないのがもどかしくて、僕は頭をかきむしりながらキーボードのエンターキーを猿のように何度も何度も叩き続けた。マイコンピュータのウィンドウが六つほど立ち上がり、瞬く間に画面を埋め尽くしてしまった。 やっと、やっとミユキの中からクボタの存在が消えてくれた。一度は振られ、諦め、そこから友達としてやり直し、今ようやく僕はミユキの中で友達以上の存在になることを許されようとしているのだ。 これを喜ばずに何を喜べというのか。このP.S.の言葉に浮かれずして何に浮かれろというのか。 僕は薬物中毒みたいな恍惚の笑みを浮かべたまま、ミユキに返事を書いた。 「お疲れ様」 P.S.の後にとても人には言えないような最大級の羞恥ワードを付け足してみて、すぐ消した。本文だけでもすでに充分にキモいのだ。これ以上はミユキに引かれるだけだし、何より自分が恥ずかしさで死んでしまう。 送信ボタンを押した後も僕は布団の中でミユキにもらったメールの文章を脳内でミユキの肉声に変換し、延々とリピートし続けていた。 会いたいよ。ユキオ君。会いたいよ。ユキオ君。 何万回聴いても飽きるということがなかった。一流スポーツ選手が集中によって脳内麻薬を自在に操れるように、今の僕はミユキの声の回想によって快楽神経に電流を流すことが可能になっていた。洪水のように押し寄せる幸福感によだれを垂らしながら布団を転げ回り、僕は普段信じてもいない神様に向かって心の底から感謝した。 世界中の人間にサンキューと言って回りたい気分だった。あのクボタでさえ今は抱擁でもって迎えられる気がした。ミユキを手放してくれてありがとう、これからもよろしく、と。 ただもちろん、これでハッピーエンドが保証されたわけではない。本当の勝負は、この次だ。ミユキだっておそらくそう思っていることだろう。 ミユキはクボタに告白までして、けじめをつけてきてくれたのだ。次は僕がもう一度、勇気を見せる番だ。 大丈夫。なんだってできる。ミユキに力をもらった、今の僕なら。 |