You say you want a leader
自分を導いてくれる人を求めているんだね

But you can't seem to make up your mind
でも君はまだ決心がつかずにいるみたい

I think you better close it
こんなことはもうやめにしようよ

And let me guide you to the purple rain.
僕についておいで、この紫の雨の中まで
“ Purple Rain" Prince

■第十五章(1999.January)1■

 クボタが「明日電話する」と言ってからすでに二週間以上が過ぎていたが、どれだけ待っても言い訳の電話は来なかった。言い訳のしようもないのか、言い訳の必要もないと思っているほど僕とアオヤマを舐めているのか。まあどんな理由を持ち出されても、僕が今更クボタを許すことはないのだが。

 オフ会の打ち合わせで週末にアオヤマを呼び出すと、アオヤマの体型は痩せすぎが進行しすぎて逆に腹が膨れて見える、アフリカの飢餓救済キャンペーンの写真によく写っている子供みたいなことになっていた。無理やりベルトで締めているだけのジーンズがずり落ちてくるらしく、アオヤマは神経質に腰のデニムを掴んでは引き上げる動作を何度も何度も繰り返していた。
「お前、飯ちゃんと食ってないのか? 死ぬぞ、そんな痩せたら」
 僕は若干引き気味に言った。
「いや、お金がなくてさ」
 アオヤマがけふけふと乾いた咳をした。完全に死の間際の咳だった。
「今度は何をねだられてんだよ」
「物はねだられてないよ。物は」
 アオヤマはなぜか得意げに胸を張った。「ミカちゃん、フランスに留学するのが夢だったって言うからさ。ボクが、つれてってあげようと思って」
「どうせそれもねだられたんだろ?」
「ねだられたんじゃないよ。ボクが連れて行きたいと思って、密かにお金貯めてるだけだよ」
 満額貯まってからミカに「行かない」と言われたらいったいどうするつもりなのか、と思ったがもちろんそんなことは聞けなかった。
「そんなことよりオフの話だよ」
 いいところでアオヤマが話題を元に戻してくれた。「日にちは2/13の土曜確定でいいんだね?」
「ああ」
「人数はあれから三人増えて、いまんとこ25人。で阿仁木さんの好意で、コンテナ倉庫を一つイベントスペースとしてタダで貸してくれるって言ってるんだけど、どうする?」
「コンテナ倉庫? なんだそれ。どこにあるんだ?」
「ええと、新木場だって」
「新木場?」
 コンテナと新木場で僕は細木事件を思い出していた。なんで僕の周りの頭のおかしい人たちは東京湾にこだわるのだろうか。それともコンテナ倉庫の借り切りというのは最近流行っているのか?
「新木場はちょっと都心から遠すぎるだろ」と僕は言った。
「遠いけど、でも交通の便はそんな悪くないよ。200人くらいは余裕で入れるって言ってたから、あと何人増えても安心だし」
「にひゃくにん?」
 僕は奇声を上げて頭を抱えた。「だめだめだめ、その案却下。ていうか冷静に考えて寒くて死ぬだろ、ニ月のコンテナ倉庫の中なんて」
「そういえばそうかもね」とアオヤマが今ごろ気づいて頷いた。「じゃあどうするの?」
「そうだな…都内でキャパ30人くらいのイベントスペースみたいなところ借りたら、やっぱり高いかな?」
「村方さんがそういうのに詳しかった気がする。聞いてみるよ」
「ああ、任せた。それよりフランスはいいから飯食えよ飯。死んだら何もできないぜ」
「そうするよ」

 この間のクボタとミカのデートの件は、やはりどうしても言い出せなかった。


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