Baby, the truth is out so don't deny 真実は明るみにされたってのに、今さら否定したってもう遅いのさ Baby to think I believed all your lies 僕が君の嘘を全部信じてたって、君が思い込んでたことをね “Gotta get away" The Rolling Stones |
■第十四章(1999.January)3■ 「じゃあまあ、一つずつ順番に考えてみようか」 僕は頭を掻き毟りながら言った。 「はい、よろしくお願いします」エビス君が深く頷いた。 「まず何だっけ…テニス? 子供の頃フランスで優勝した、とか何とか言ってた件だけど」 「アメリカです」エビス君が間髪入れず突っ込んだ。 「どっちでもいいよ。こればっかりは付け焼刃で練習したところですぐ見破られちゃうから、もうしょうがない。わざと利き腕を怪我しろ」 「ええ!?」エビス君とアオヤマが同時に声を上げた。 「包帯巻いておくだけで運動能力系の嘘は最低一ヶ月ごまかし通せるんだ、腕一本くらい安い犠牲だろ。安心しろ、腕の怪我ならセックスはまったく問題なくできる」 「そりゃまあそうですけど…」エビス君が納得いかないといった表情で呟いた。「一ヶ月経った後はどうするんですか?」 「そんな先のことは考えるな」 僕は厳しい口調で言った。「いいか、このネゲットは短期決戦だ。嘘はどうせ長くはもたない。一ヶ月の間に何回か会って何回かセックスできたらそれで御の字だ。違うか?」 エビス君は頬を赤くして黙ってしまった。セックスできたら御の字、ということで問題ないようだ。 「で次は…東大か」 僕は続けた。「エビス君、まだ彼女に本名は名乗ってないよな?」 「ええ、名乗ってないです。ハンドルネームしか知らないはずです」とエビス君は答えた。 「アオヤマ、お前のネットの知り合いに確か東大生いたよな?」 僕は斜め向かいの席で暢気にジュースを啜っていたアオヤマに向かって訊ねた。 「え? うん…いるけど」とアオヤマは答えた。「吉川君っていう、文T現役合格の東大一年生。めちゃくちゃ頭良いよ」 「一日だけでいいから、学生証貸してもらって来い」と僕は言った。「その吉川君の顔写真の上に、エビス君の顔写真を貼り合わせて即席の偽造学生証を作る」 「ええ!?」またしてもエビス君とアオヤマが同時に声を上げた。 「ビニールケースに差した状態で見せれば大丈夫、写真が上張りされた偽物かどうかなんてぱっと見じゃ絶対わからないから。相手はエビス君の素性をまだ何も知らない、名前が違おうが住所が違おうがそこから嘘がバレることはありえない」 「なるほどねえ」 アオヤマが感心して頷いた。エビス君はまだ呆気に取られた表情のまま、 「あ、あの、その方法だと、シホちゃんは学生証に書かれた『吉川』って名前を見てしまうわけですよね?」と言った。 「まあ、学生証見せられて名前の欄を見ない奴は普通いないよな」と僕は答えた。 「それだとその後、下手すると僕はシホちゃんに『ヨシカワ君』って呼ばれてしまうことになる恐れが…」 「恐れ?」僕はまたエビス君の話を遮った。「君はこれから彼女の前では『ヨシカワ』と名乗ってつきあっていくんだよ。何を恐れる必要がある?」 「………」エビス君は口を開けたまま言葉を失ってしまった。 「それじゃ最後は…パソコンの自作か」 僕はエビス君のリアクションを無視して続けた。「これは何回か練習で、組んではバラして組んでバラしてってやってみたらなんとかなるんじゃないか?」 「自作の練習?」とアオヤマ。「そんなのどこでするの?」 「アオヤマ、お前のパソコンって確か自作機だったよな?」 「自作だけど…それがどうかし」 言葉の途中でアオヤマは何かに気付き、震え出した。「ま、まさか、ひょっとして…?」 「よし、分解しよう」と僕は言った。「お前のPCバラバラに分解して、一からエビス君に組み直してもらおう。本番も全く同じパーツを揃えて組めば失敗もないだろ」 「そ、それだけは、それだけは勘弁」 アオヤマが僕の腕を掴んで懇願を始めた。「あの中にはパソゲーのセーブデータとかが一杯入ってるんだよ、消えちゃったら困るよ」 「諦めろ。もう一回インストールからやり直せ」 僕は冷たく言い放った。アオヤマががっくりと肩を落とした。 |