Baby, the truth is out so don't deny
真実は明るみにされたってのに、今さら否定したってもう遅いのさ

Baby to think I believed all your lies
僕が君の嘘を全部信じてたって、君が思い込んでたことをね
“Gotta get away" The Rolling Stones

■第十四章(1999.January)2■

 エビス君の話は要約するとこういうことだった。
 エビス君は昨年末、シホという名前の女子高生から熱心な応援メールをもらった。メールの最後に書いてあったURLになにげなく飛んでみたところ、ホームページのプロフィール欄に美少女の写真が貼ってあったのでこれはチャンスと慌てて返信。 文通をしばらく重ねていたのだが、エビス君はその文面で自分を良く見せたいあまりにたくさんの嘘をついてしまった。今はシホのほうから会いたい会いたいとせがまれているところだが、直接会うことで嘘がばれて幻滅されるのが怖いのだという。

「なんでそんな嘘なんてつくかね」
 僕は呆れた声で言った。「後でこうなるってわからなかった?」
「最初はもちろん、嘘なんてつくつもりはなかったんです」
 エビス君は弁解を始めた。「シホちゃんの趣味がテニスだっていうから、冗談で『僕はアメリカのジュニアスクール時代に大会で優勝したことがあるよ』って返信したら彼女信じちゃって…そこで『ごめん嘘』って言っておけば良かったんですが、あんまり彼女がすごいすごいって言ってくれるものだから僕もつい話を合わせてしまって。気がついたら、引き返せないところまで話が進んでしまっていました」
「その子も相当アレだな、そりゃ」と僕は言った。そんなどこかのB級漫画みたいな荒唐無稽な話を無条件に信じるとは、相当頭がアレな子に違いない。
「後から知ったんですが、彼女箱入りのお嬢様だったんです。僕ら庶民とは、常識がちょっとズレてるとこあるかもしれません」
 ちょっとどころじゃないだろ、と思ったがそれは言わないでおいた。
「で? 他にはどんな嘘を?」と僕は訊ねた。
「他には…あの…」エビス君が小声で答えた。「東大…」
「は?」
「あの…通ってる大学……東大って……」
 僕は痛み始めた額を右手で抑えた。「で? 本当に通ってる大学は?」
 エビス君はもじもじと俯いたまま、「大東文化大…」と呟いた。
「ビッグ東大か。まあギリギリ嘘にはなってない」と僕は言った。「でも彼女は、日本の最高学府である東京大学のことだともう信じてしまっているわけだ」
「はい…」
「だろうね」僕はため息をついた。「他にはまだ何かあるの?」
「他にもいっぱいあるんですが…差し当たって困ってるのが、『パソコンの自作ができる』って言っちゃったことなんです」
 エビス君はさらに一段階弱々しい声で続けた。「今度君のパソコンも組んであげるよ、なんて調子に乗って言ってたら 『ぜひお願いします』って答えられちゃって…いつなら予定空いてるかって聞かれてて、ずっと逃げてる状態なんです」
「聞くだけ無駄だとわかった上で一応聞くけど、自作の経験は?」と僕は言った。
「ないです」
 エビス君はなぜか自信満々に答えた。「ネットのこと以外、パソコンはさっぱりわかりません」
「だろうね」と僕は言った。そしてこの相談を受けたことを激しく後悔し始めた。


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