Baby, the truth is out so don't deny
真実は明るみにされたってのに、今さら否定したってもう遅いのさ

Baby to think I believed all your lies
僕が君の嘘を全部信じてたって、君が思い込んでたことをね
“Gotta get away" The Rolling Stones

■第十四章(1999.January)1■

 ミユキに「待って欲しい」と言ってもらえたのは僕にとってはとてつもない前進であり喜ぶべきことではあったのだが、これはこれで一つの拷問でもあった。
 ミユキは「自分で決着をつけてくる」と言い、僕は「いつまででも待つ」と返事した。この待機状態で僕がミユキのためにできることは? そう、何もないのだ。ただでさえ今の僕はミユキの返事が待ち遠しくて、 一日が長くて長くて仕方なく感じているというのに。一番何かしていたい時にただひたすら待つ以外に何もすることができない、というフラストレーションは想像以上にきついものだった。

 仕方がないので、ミユキに関すること以外の諸問題から順番に片付けていくことにした。

 アオヤマが連れてきたのはダボダボの茶セーターの上に紫のフリーストレーナーを着込んだ、一昔前のアオヤマに勝るとも劣らないファッションセンスを持った青年だった。類は友を呼ぶ、とはこういうときにこそ使うべき言葉だろう。

「どうも、はじめまして。『アジアンソウル』という日記サイトやってます、エビスと申します」
 青年は僕に頭を下げた。歳は推定で19、20歳。今どき珍しい四角レンズのガリベン委員長のような眼鏡をかけていたが、全身から受ける怪しい印象は委員長というよりはむしろ変質者だった。
「ユキオ、悪いね。忙しいとこ呼び出しちゃって」
 ジャコメッティの彫刻を思わせるほど芸術的なまでに痩せ細ったアオヤマが、横からへらへらと手を振ってきた。相変わらず頬は土気色で、瞳は死んだ魚のように黒く濁っていた。
「いやまあ、それはいいんだけど」と僕は言った。「相談ってのは何かな? できたら雑談は後にして、面倒事を先に片付けちゃいたいんだけど」
「あ、はい」
 エビス君が慌てて座りを正した。
「実は、ネットで知り合った女の子のことなんですけど…」
「ちょ、ちょっと待って」
僕はエビス君の話を遮ってアオヤマの肩を突付いた。
「これってもしかして恋愛相談か? そういうのはクボタに聞いてくれよ。何で俺なんだよ」
「聞こうとしたよ。したけど、君のオフ会の件で揉めて聞けない状態になっちゃったんじゃないか」
 アオヤマが逆切れ気味に声を張り上げた。「だからここは君が責任を取るべきだろ。頼むよ、話聞くだけ聞いてやってよ」
 僕がクボタを怒らせたことの責任とエビス君の相談に乗ってあげることに何の因果関係があるのかはよくわからなかったが、僕は仕方なく「わかったわかった、聞くだけは聞こう」と返事した。アオヤマにはオフ会のメンツ集めをしてもらっている借りがある。ここで借りを返しておけるなら、返しておくに越したことはない。

「ええと、エビス君っていったっけ? とりあえず最初から話してみなよ」
 僕はつとめて優しい口調で青年に語り掛けた。「人に話しているうちに、何か自分で解決の糸口が見つけられることもあるしさ」
「ありがとうございます」とエビス君は頭を下げた。そしてぼそぼそとした声で、事の成り行きを話し始めた。


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