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Winter, spring, summer or fall 冬でも、春でも、夏でも、秋でも Hey now, all you've got to do is call 君はいつでも僕を呼んでくれればいい Lord, I'll be there, yes I will 僕はすぐに君の元に駆けつけるよ、約束するよ You've got a friend. そう、君には友達がいるのだから “You've Got A Friend" James Taylor |
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■第十二章（1999.January）４■ 「雨の日と月曜日はいつも私を憂鬱にする」と歌ったのは、たしかカーペンターズだったか。 ということはその憂鬱の条件が二つ重なった、大雨の月曜日である今日は最悪中の最悪の日ということだ。こんな日にまで律儀に大学なんて行く奴はよほどタフな奴か、暇人だけだろう。僕は早々に大学はあきらめて昼まで二度寝をし、午後に雨足が少し弱まってきたところで駅前の漫画喫茶に繰り出した。 顔見知りの店員から「三時間パックでよろしかったですか？」と訊かれたが、僕は「六時間で」と答えた。あまり早く帰ってしまうと大学に行かなかったことが親にばれてしまう。それに今日はじっくり漫画を読みたい気分だった。 月曜の昼間という時間帯のせいだろう、漫画喫茶は見たところ僕の貸し切り状態だった。もしかしたらどこか隅の席で静かに読書中の人間がいるのかもしれないが、見渡せる範囲内には人の気配はまったくなかった。 こういう時は普段手に取るのが恥ずかしい種類の少女漫画を読むに限る。僕は「ママレード・ボーイ」「ニューヨーク・ニューヨーク」「超獣伝説ゲシュタルト」「CLOVER」「妖しのセレス」といったタイトルを次々と手に取り、二人がけ用の広いソファの個室に持ち込んだ。休日には小憎らしいカップルどもですぐに埋まってしまう人気席だが、他に客のいない今くらいは僕が占有しても罰は当たらないだろう。夕方に混んでくるようならその時はその時で席を移ればいいだけだ。 いつもの独房と違った広さに余裕のある個室が逆に落ちつかなくて、僕は慣れるまで何度も尻を上げては位置を変えて座り直した。そして少女漫画の甘く切ない恋愛模様を読んでいるうち、今このカップル席の傍らにミユキがいて一緒に漫画を読めたらどれだけ幸せだろう、なんてことを思ったりした。 ミユキはたぶん大学をサボって漫画喫茶になんて絶対来てくれないだろうが。 四時間かけて個室に運び込んでいた全ての漫画を読み終え、僕はため息をつきながらソファに深く頭を沈めた。急激に眠気がやってきたが、漫画喫茶で熟睡に入ってしまうと延長料金が非常に恐ろしいことになる。僕は意識の命綱を残しながら軽く目を閉じ、眼球の休息に専念することにした。 暗闇の中で色々なことを考えた。来月に開催を控えたオフ会のこと。クエマツさんに誘われたライター仕事のこと、自分の将来のこと。険悪になったきり連絡をしていないクボタのこと。アオヤマの謎の頼み事のこと。そして今もって僕のことをどう思っているのかいっこうにわからない、ミユキのこと。 年が明けてからわずかニ週間の間だけでこれだけの懸案材料が同時発生することなんて、今までの21年の人生を振り返っても初めてのことだった。やはりこれも世界崩壊の予兆の一つなのだろうか。 しかし元を辿ればそもそもオフをやることになったのもクボタと揉めたのも、ミユキがオフ会をやれなんて奇妙な命令を僕に与えたからだ。なぜオフ会なのか？ なぜ僕を初詣などに誘い出し、おみくじで運勢の良いほうの命令を聞く、なんて勝負を申し出たのか？ いくら考えてもまったくわからない。ミユキ本人に訊いても「なんでだろね」とはぐらかされてしまった。もしかして全ては単なる「女の気まぐれ」というやつに過ぎなかった、ということなのだろうか？ ミユキは僕の複雑な胸中など気にもせず、ただなんとなくで思いついたことをそのまま口にしただけだったというのだろうか？ ただまあ、たとえ気まぐれだろうが思いつきだろうが、その実行対象に僕を選んでもらえたという事実はとりあえず喜んで良いことなのだと思う。一度は露骨に二人きりになることを避けられた身なのだ。その警戒モードを解除してもらえただけでもありがたいことだと思わなければいけない。 食事に誘ってもらえるまでの関係にまた戻れたことを、神様に感謝しなければいけない。 とりあえず事態は徐々に良い方向に向かっている、はずだった。あとは目の前にある問題をゆっくりと一つずつ、解決していけばいい。そして全てをうまく切りぬけオフ会まで成功させることができたなら、僕はきっと少し変われる。ミユキを支えていける自信を持てる。そう思った。 |