Winter, spring, summer or fall
冬でも、春でも、夏でも、秋でも

Hey now, all you've got to do is call
君はいつでも僕を呼んでくれればいい

Lord, I'll be there, yes I will
僕はすぐに君の元に駆けつけるよ、約束するよ

You've got a friend.
そう、君には友達がいるのだから
“You've Got A Friend" James Taylor

■第十二章(1999.January)3■

 クボタの捨て台詞が気になって仕方なかったので、あらためてアオヤマに確認の電話を入れてみた。

「そうそう、昨日クボタ君から妙な電話があったんだよ。なに、君ら喧嘩でもしたの?」
 喧嘩はしてないがクボタは僕がオフを開催するのが気に入らないらしい、と正直に話した。
「ユキオのオフに行くな、協力もするなって言われたけど…さすがにそれはできないって断ったよ。なんか怒ってて色々言われたけど、ずっと謝ってたらそのうち電話切られちゃった」
「そうかそうか、ありがとう」
 僕は歓喜の声を上げた。やはりアオヤマこそは心の友だ。
「もう結構な数の参加者集めちゃったからね。いまさら中止ですとは言えないよ」
「え? 結構な数?」
「もう現段階で18人くらい集まってるよ。この調子なら、来月までだと30人くらい行くかもね」
「お、おい、何言ってんだよ」
 僕は焦って言葉を噛んだ。「10人くらいでいいって言ったじゃねえか」
「そのつもりだったんだけど、思ってたより集まっちゃったんだよ」とアオヤマはしらっと言った。
「まあいいじゃない、盛大にやれば。このオフをうまくまとめたらユキオのサイトもきっと大手になれるよ」
「そんなもんなりたくないよ」と僕。「せめてアオヤマ名義のオフ会に今から変えてくれ。俺主催では荷が重過ぎる」
「もう遅いよ、今さら何言ってんだよ」とアオヤマ。まあそりゃそうだ。
「とりあえず、募集はここで打ちきりだ。もう一人たりとも増やすんじゃねえぞ」
「でも口コミで誘ってもらってるのまでは止めきれないよ」
「そこをなんとか止めてくれ。これ以上増えたら本気で逃げ出しかねない」
「わかったよ。何とかしてみる」
「任せたぞ。じゃあな」
 僕が電話を切ろうとすると、「ちょ、ちょっと待って。最後に一つだけ」とアオヤマが慌てた声で早口に言った。
「今度ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんだ。悪いけど顔貸してもらえないかな?」
「相談?」
 僕は少々の嫌味をこめて「またミカのことか?」と言った。
「違うよ、ボクのことじゃないよ。ボクのネット友達のことなんだけど」
「ふうん」
 率直に言って面倒ではあったが、先に面倒なお願いをしているのは僕なので断るわけにもいかなかった。
「わかった、力になれる自信はないけど話なら聞くだけ聞くよ」
「ありがとう。それじゃ」アオヤマは電話を切った。
 しかしまさかこれだけの短期間で、18人もの数の人間をあっさり集めてしまうとは。もはやクボタの力など遥かに超えていた。そりゃクボタが不機嫌になるわけだ。アオヤマ本人にはクボタを苛立たせている、という自覚はまったくないようだったが。
 でもこれでミユキの期待には応えることができそうだった。アオヤマの力に頼ったとはいえ、18人集まればミユキも文句は言うまい。
 僕はさっそくミユキに電話し事の次第を説明した。

「すごいすごい、さすがはユキオ君だね。おめでとう」
 電話の向こうでミユキは手を叩いているらしく、ぱちぱちという音がしばらく無言の受話器に響いて聴こえた。
「僕はなにもしてない。全部アオヤマのおかげだよ」と僕は照れ混じりに言った。
「でもそのアオヤマ君が寄せてくれた好意も全部含めて、ユキオ君の持っている力なんだよ? ユキオ君はそれに胸を張っていいんだよ。遠慮なく受け取って活用すればいいんだよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
 ミユキにそう言われるとなんだかその気になってくる。我ながら単純なものだ。
「ところで一つ聞いてもいい? なんでオフなの?」と僕は訊ねた。
「なんでって、なにが?」
「正月のくじ引き勝負だよ。他に何でももっと君の得になる命令があったはずなのに、なんで『オフをやれ』なんてわけのわかんないのにしたの?」
「さあ、なんでだろね」ミユキが笑った。
「なんでってそんな」
 僕は呆れた。「こっちはそれで大変な目にあってるっていうのに」
「あはは、ごめんね。お詫びといっちゃなんだけど、今度の土曜日、暇?」
「暇」と僕は答えた。本当はバイトが入っていたが、そんなのは後で同僚に電話して変わってもらえばいいのだ。ミユキと会うこと以上に大事な予定なんて、僕にあるわけがない。
「ユキオ君には最近なんかお世話になりっぱなしだし、お礼も兼ねて何かご飯でもご馳走しようかと思って」
「ご馳走?」僕は慌てた声で言った。「いいよ、ご飯はもちろん喜んで行くけど、割り勘でいいよ。世話になりっぱなしでご馳走しなきゃいけないのは、むしろ僕のほうだよ」
「だめだよ、割り勘なんて」ミユキはきっぱりと言った。「今回はわたしが奢ると決めたんだから、ユキオ君は黙って奢られておけばいいの。わかった?」
「わかった」と僕は言った。なんだか母親に怒られているような妙な威圧感があった。
「じゃあまたいつも通り、新宿アルタ前で待ち合わせにしよっか。何か食べたいもの、リクエストある?」
「奢ってもらうのに贅沢は言わないよ。なんでもいいよ」
「吉野家とかになっちゃうよ?」
「いいよ」
 ミユキと一緒ならそれでも全然かまわなかった。
「うそうそ、東口に安くて味もそこそこなイタリアンできたから、そこ行こうよ。 あまり美味しくなかったらごめんだけど」
「いやいや、期待して待ってるよ」
「じゃ土曜日にね。夕方五時くらいに待ち合わせでいい?」
「いいよ」
「楽しみにしてて。それじゃ」ミユキは電話を切った。 


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