May your heart always be joyful
君の心がいつも喜びに満ちあふれていますように

May your song always be sung
君の歌がいつも歌われていますように

May you stay forever young
君がいつまでも若くいられますように

Forever young, forever young,
いつまでも若く、永遠に若く

May you stay forever young.
君がいつまでも若くいられますように
“Forever Young" Bob Dylan

■第十一章(1999.January)3■

 環七の大通りを南下し野方の駅を超えて妙正寺川を渡った辺りで、ミユキは似たような作りの戸建住宅と似たような大きさのキャベツ畑を延々と繰り返す脇道へと進路を変えた。 僕はミユキの三歩後ろに付き従うようにして、足音を殺して静かに歩いていた。どこか遠いところで石焼き芋の屋台のスピーカーの声がするのが微かに聞こえた。ミユキに教えてあげるべきか迷ったが、下手に興味を示されてうろうろすることになるのも面倒だったので黙っていることにした。
「マフラー、使ってくれてるんだね。ありがとう」
 ミユキは僕の首元をちらりと覗き込んで言った。
「毎日のように使ってるよ」と僕は答えた。「僕の宝物だよ」
「でもどうせもうすぐ解けちゃうよ、ごめんね」とミユキは笑った。
 寒風が僕らの手のひらと手のひらの間の微妙な隙間を吹き抜け、ミユキは目を細めながら「寒いねえ」と言った。僕は「そうだね」と答えた。でも本当のところ、僕は寒さなんてまったく感じてはいなかった。僕の身体はミユキと共にいられる喜びに滾り、むしろ暑さにコートを脱ぎだしたいくらいだった。




 八幡神社の境内は三が日を過ぎた後のしかも日暮れ時だからか、誰もいなかった。僕らは賽銭箱に100円玉を放り投げ、手を合わせて目を閉じた。僕はもちろんミユキのことを祈った。 ミユキの健康を、ミユキの幸福を、それから僕とミユキの未来が共にあることを願った。ミユキが何を願ったのかは聞かなかった。ほんの少しでも僕の名前が含まれていればいいな、と思った。
「ユキオ君って、神様の存在を信じるタイプ?」とミユキが言った。
 僕は少し考えた後で、「その時々の都合によって信じたり、信じなかったりするずるいタイプ」と言った。
「あはは、ほんとにずるいね」とミユキは笑った。「でもわたしもそうかも。普段信じてないくせに、お正月だからってちゃっかりこんなとこ来てるしね」
「ずるい人間だけが生き残れるんだ」と僕は言った。「ミユキももう少し、融通ってものを覚えたほうがいいよ」
「それって、わたしが頑固っていうこと?」
「そうは言ってないけど」
「嘘だあ」ミユキが笑いながら僕の背中を押した。

 陽が落ちて暗くなってきてしまったので、そろそろ帰ろうかと僕は言った。ミユキが頷いた。
「おみくじ引いていく?」と僕は聞いてみた。
「引く」とミユキは答えた。僕らは無人のおみくじ置き場に百円玉を乗せ、一枚ずつくじを引いた。
「ねえ、せっかくだからさ、勝負しない? どっちが良い運勢を引けるか」
 紙を開く寸前のところで、ミユキが楽しそうな声で言ってきた。
「いいよ」と僕は言った。「で、何を賭けるの?」
 ミユキはしばらく考え込んだ後で、「負けたほうは勝ったほうの言う事を何でも一つ聞く、ってのはどう?」と言った。


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