Those were the days of our lives
あの頃僕らの過ごした輝ける日々

The bad things in life were so few
人生に悪いことなんてほとんど何もなかった

Those days are all gone now, but one thing is true
全てはもう遠い昔のこととなってしまったけれど、
でも一つだけ確かなことがある


When I look and I find I still love you.
僕は今でも君を愛している
“Those were the days of our lives" Queen

■第一章(1998.September)1■

 いつものように紅茶のカップを傍らに置き、僕は使い慣れたメールソフト「Almail」を立ち上げ受信ボックスを開いた。ネットの前にはまず紅茶、これは僕にとってある種の儀式に等しい。別にコーヒーでもココアでも何だっていいような気はするのだが、いざPCの前に座ってみると紅茶以外はどうもしっくりこないのだ。なぜかは自分でもよくわからない。
 受信ボックスには合計六通のメールが届いていた。四通は意味不明の英語がつらつら並んだ迷惑メール。一通は僕のサイト読者からの応援メール。そしてもう一通はオフ会の誘いといった用件だった。最後の一通の差出人は読む前からすぐにわかった、いつものようにクボタからだった。これで今月すでに三回目のオフ会勧誘だ、予測できないほうがおかしい。
 僕はオフ会のメールはとりあえず無視し、もう一通届いていた応援メールに返信しようとマウスに手をかけた。が、その時タイミングを見計らったかのように携帯が鳴り響いた。

「もしもし、ユキオ? ボクだよ、アオヤマだ」

 中途半端に高いアルト声。アオヤマの声はかなり特徴的で、喧騒の中でも一発で聞き分けることができるほどだ。本人は自分のそんな声質があまり好きではないらしいが。
「わざわざ電話しなくてもメールでいいじゃねえか…何の用だよ」
 僕は露骨に面倒臭そうな声で言った。もちろん実際のところはそれほど面倒というわけではない。のだけれど、僕を始めとしてみんながアオヤマに冷たく当たるのは何というか、アオヤマがそういうキャラだからだ。
「そんな言いかたしなくてもいいじゃないか…ボクには君くらいしか、電話する相手もいないんだよ…」
 いじめるなというほうが無理な声だった。
「わかったわかった、それはいいから早く用件を」
「クボタ君のメール、もう見た?」
「そんなことだろうと思ったよ。俺が行くかどうかって話だろ?」
「うん」
「行かない」と僕は簡潔に言った。「今回はパス」
「なんで? 用事でもあるの?」
「用事はないけど、さすがにもう疲れた。最近オフ会出すぎだよ」
「あれ、オフ会だったら毎日でもイケるって言ってたのは誰だっけ」
「前言撤回」と僕はまた簡潔に言った。「『オフ会で彼女ゲット』なんてなあ、はっきりいって幻想だから。おまえも変な夢を見るのはもう諦めて、そろそろ現実と向かいあおうぜ」
「最近は『ネゲット』っていうらしいよ」
「言い方なんかどうだっていいよ。とにかく今回はパスするから、行くならクボタによろしく言っといて」
「えーっ、ユキオが来ないとなると他に話す人いないし…困るよ」
「一人で初対面の人と会話してくればいいじゃねえか、普通に。知り合いとしか話せない小心者のくせによくネゲットだとか寝言言えるよな、ほんと」
「………」
 言い負かされたアオヤマがまた沈黙鬱モードに入ってしまったので、僕は「とにかくまた連絡するから。じゃあな」と言って一方的に電話を切った。

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