その部屋は廊下の突き当たり、玄関から一番遠い場所にあった。この部屋のドアにだけは簡単な鍵がつけられていて、アスカはポケットをまさぐって取り出した小さな鍵でその扉を開けた。
  八畳ほどの広く閑散とした部屋の中にはパソコンが全部で七台あった。入り口付近の机に三台、その隣に並んだ机に一台、部屋の奥隅の机に三台。奥の三台は一目でわかった、ぼくの使っているのと同じNECのバリュースターNXだったからだ。それほど新しい型ではなさそうだ。たぶんぼくのより古い。
  手前の机の三台のうち一台は大きく立派なディスプレイを備えていた。おそらくこれがメインのパソコンなのだろう。機種はぱっと見たところどこにも書かれていないのでちょっとわからない。両脇に並んだ小型の二台にしてもやはり真っ白で、デザインはシンプル極まりなく、色気も何もあったもんじゃなかった。アスカはその三台のパソコンが並んだ机の椅子に腰を下ろし、またぼくを手招きした。
「適当に、画面の見えるとこまで来て」
  足下のおびただしいタコ足配線を踏まぬよう慎重に歩きながら、ぼくはアスカの座る椅子の隣に立った。やはりどれだけ近くで見ても機種どころかメーカーすらわからなかった。
「これ、ひょっとして自作パソコンってやつか?」とぼくは訊いた。
「そうよ」とアスカは三台のうち真ん中のデスクトップの電源を入れながら答えた。鈍い光を発しながらディスプレイに文字が走る。
「1ギガHzの最新CPUと1テラ近いHDD積んだ特別製よ」とアスカはちょっと誇らしげに言った。
「1ギガHz」ぼくは絶句した。ぼくのバリュースターNXは450MHzで高性能と言われ友達に羨ましがられているというのに。その倍というとどれほどの性能になるのだろう。
  起動を待っている間に宮本さんが入ってきて、ぼくの後ろについた。これでギャラリーは二人になったわけだ。
「で、面白いものって、いったい何なの」とぼくは言った。
「決まってるじゃない」とアスカ。「もちろん、ハッキングするのよ」

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