日記抜粋版
ストーカー小説「むちむち☆メモリアル」

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3月25日(土)

第八話「堕天使たちの放課後〜汚れた翼〜」


  ボクたちのクラス全員を乗せた貸し切りバスはようやく目的地、霊峰富士を目前に望んだ神秘的な湖・西湖キャンプ場前に到着した。
「うーん、空気がおいしいね。天気もいいし、最高だね香織ちゃん」とボクはアウトドア姿も勇ましい香織ちゃんに声をかけた。
「これでテメーさえいなければな」と香織ちゃんはふてぶてしく答えた。まったくもう、素直じゃない。

  ボクたちは湖畔に各自宿泊用のテントを立て始めた。みんな初めての経験のせいか、なかなか上手くいかない。だけどその試行錯誤がまた楽しい。
  だいたい2,3人で一つのテントを使うことになっているのだが、人数の都合かボクだけ一人でテント一つ自由に使ってもいいとみんなが言うので、もとから手先の器用なボクはたった一人でどのグループよりも早くあっという間に自分のテントを組み上げてしまった。まったく、みんなこんな簡単なことがどうしてすぐにできないのだろう?
  退屈になってしまったボクはふと香織ちゃんが気になって、女子のテントの方をちらりと見る。すると香織ちゃんはこそこそと何かから隠れて逃げるみたいに、湖の奥の森の方へ入っていく。ボクはそれを追いかけた。
「香織ちゃん!どこ行くんだよ!そっちは危ないよ!」とボクは後ろから叫んだ。ところが香織ちゃんは顔を真っ赤にしながらさらに森の奥へと逃げていく。
「うるさいわね!いいから向こう行っててよ!」
「どうしたっていうのさ!…ああ、わかった!ウ○コしたくなったんだね!」
オシッコよ!いいから向こう行ってってば!」
  全力で走る香織ちゃん、全力で追うボク。ずいぶん長い時間追いかけっこを続け、二人して息を切らす頃にようやくボクは自分たちがもうずいぶんと森の奥まで入り込んでしまっていることに気がついた。
「香織ちゃん…一つ聞くけど、帰り道ってわかってる?」ボクは息をぜいぜい言わせながら訊いた。
「あたしがわかるわけないでしょ。あんた知ってるんでしょ?」
  ボクたちは顔を見合わせた。「ひょっとして…迷った?」
「ま、まあ適当に歩いてみればそのうち森の外に出るでしょ」と香織ちゃんは平然とした表情を取り繕ってみせた。
「無理だよ香織ちゃん。ここが何処だかわかってるの?泣く子も黙る自殺の名所、青木ヶ原樹海だよ」
  一瞬にして香織ちゃんの顔が青ざめた。「そ、そんな!あたしここで死ぬの!?そんなの嫌、嫌よ」
「落ち着いて香織ちゃん」とボクは冷静に言った。「騒いだってもう遅いよ。それより、ここにはボクら二人しかいないんだ。どうせ死ぬなら、残り少ない生をボクと楽しもうよ。そう、さながら地上に堕ちたアダムとイヴのように」
「お前アダムとか言えるツラかよ」と香織ちゃんは言った。「あーん、お母さーん!家に帰りたいよー!!」
「そんなに帰りたい?」ボクはため息をついた。
「帰りたいに決まってるじゃない!ここで死ぬなんて嫌よ!」
「そう…しょうがないなぁ」
  ボクはポケットから携帯電話を取り出し、番号を押し始めた。
「な、何してるの?こんな場所からケータイなんかかかるわけないでしょ」と香織ちゃんは言った。
「かかるよ、ボクのは特注の衛星携帯電話イリジウムだからね。例え南極からだってかかるよ」
  電話がつながった。
「あ、ボクボク、そうyukkyだ…わけあってちょっと樹海の中で迷ってる。最短で助かりたいんだけどどうすればいい?
うん…うん…なに、自衛隊東富士演習場が近くにある?うん…うん…なるほどわかった、ありがとう。また電話する」ボクは電話を切った。
「ど、どうなったの?」香織ちゃんが不安そうに訊いてくる。
「ああ、ボクのハッカー友達にちょっと根回ししてもらったんだ。今から自衛隊のヘリが2台迎えに来るって。あんまり急なもんだから、演習中の対戦車ヘリコプターAH−1Sがそのまま来るって言ってたけど、まあこの際贅沢は言えないよね」
「なんでオメーごときに自衛隊がこんな早く動くんだよ」と香織ちゃんが言った。
「こないだ友達と二人で暇つぶしにDIA(アメリカ合衆国国防情報局)から最新軍事ファイルをハックしてあってね。防衛庁にそのデータあげてもいいと言ったら5分以内に救出に向かうってさ。あ、ほらもう来た」
  上空にバラバラとヘリコプター特有の旋回音が鳴り響く。約束通り5分以内に来たようだ。
「で、でも樹海が広すぎて、あたし達がどこらへんに居るのかわからないじゃない」と香織ちゃんがおろおろしながら言う。
「大丈夫、こんなこともあろうかとボクはいつも発煙筒を持ち歩いてるから」とボクはリュックサックの中をまさぐった。「それもそこいらで売ってる発煙筒じゃないよ。船舶救難信号用発煙筒で一本5000円するからね」
「どこの世界に発煙筒携帯する高校生がいんだボケ」と香織ちゃんは言った。だが、はたして本当にそうだろうか?何が起こってもおかしくないこの世の中だもの、このくらい普通だと思うんだけど。


  ボクは対戦車ヘリコプターAH−1Sから投げおろされた縄ばしごをあえてゆっくりと登りながら、先をゆく香織ちゃんの風にゆらめくスカートの中をじっくりと堪能した。香織ちゃんは助かった嬉しさからか覗かれているのにまったく気がついていない。それはまさに至福の眺めだった。このままいつまでも縄ばしごに掴まったまま、樹海上空の吹き抜ける風を感じていたいと心から思った。

  今日はまったくとんだハプニングに巻き込まれたものだけど、最後にこんないいもん見れたし。良しとするか!!



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