日記抜粋版
ストーカー小説「むちむち☆メモリアル」

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1月14日(金)

第五話「湯煙温泉殺人事件〜あの夏、君は少女から女に〜」


  夜も明けきらない早朝5時から、ボクは香織ちゃんの家の前で彼女が出てくるのをひたすら待っていた。
  そう、ボクは今や香織ちゃんと一緒に学校に通っているのだった。

  ボクが迎えに来るようになってから香織ちゃんはなぜか通学時間をどんどん早めていくので、確実に一緒に通うためには早朝5時に迎えに来ないといけなくなってしまった。この時間に張っていればさすがに香織ちゃんに先に行かれてしまうことはないからだ。
  新聞配達のお兄さんが家の前でバイクを止めて、怪訝そうな顔でボクを見る。明らかに「こんな早朝に人ん家の前でナニやってんだコイツ」、という顔だ。でもボクは余裕の表情でにこにこと微笑み返す。エヘヘ、言っちゃおうっかなあ。「カノジョ待ってるんです」、って。デヘヘヘヘ(爆)


  そのまま待つこと三時間、朝8時を少し回った所でようやく香織ちゃんが出てきた。気のせいか、なんだかゲッソリとしている。日増しに痩せ細っていく感じもする。病気だろうか、心配だ。
「おはよう、香織ちゃん」とボクは手を振った。
「…」
  香織ちゃんは何も言わずボクの横を素通りして歩き始めた。まるで電柱を通過したみたいに見事な気にしなさっぷりだった。でもまあ、顔を見るなり猛ダッシュで逃げられた初めて迎えに行った日に比べれば、遙かにマシと言えばマシか。

  香織ちゃんが歩く少し後ろをボクはまるで散歩させられている犬のようについて歩いていた。本当はボクだって隣に並んで歩きたいんだけど、並びかけると香織ちゃんはなぜか早足でまた間隔を広げてしまうのだ。仕方ないのでこうして後ろを歩いている。
「そう言えば香織ちゃん、サイト閉鎖残念だったね」とボクは後ろから声をかけた。
「…」
  香織ちゃんは返事をしなかった。
「せっかく青年誌のグラビア撮影日決定の段階まで整ってたのにね。まずかったよね、直前にアップした胸の谷間超接写の写真のせいで左腕に注射針の痕跡が無数にあるのが見つかってしまったってのは。やっぱ清純派がウリならドラッグはマズイって、ドラッグは」
「…」
「瞬く間に掲示板荒らされて閉鎖?あんなの気にしなくてよかったのに。あの程度の荒らしならボクの棲んでる超アングラ世界じゃ日常茶飯事だよ」
  そこまで言った瞬間、香織ちゃんの中で何かがハジけたらしい。香織ちゃんは肩に背負っていたテニスラケットをボクの顔面めがけてフルスイングした。ボクは鼻から血飛沫を上げて見事に後方に吹っ飛んでいった。
「荒らしが押し寄せたのはテメーのサイトが勝手にウチにリンク貼りやがったからだろうが」と香織ちゃんは叫んだ。
  ボクはかつてない量の流血を続ける鼻を押さえつつ、必死で弁明した。「な、何故だよ!いいじゃないかリンクくらい貼ったって!だいいち香織ちゃんのサイト、リンクフリーって書いてあったじゃないか!」
「テメーのリンクコメントが問題なんだよ」と香織ちゃんは頭上からさらにラケットで一撃を加えた。「テメーなにが
美少女・あゆみのLOVE×2 HP
水着いっぱいハミ毛もいっぱい!(^_^;)
人気急上昇中のネットアイドル・あゆあゆのほめぱげ(o ̄∇ ̄o)
ここで爆弾発言!(≧▽≦)
実はあゆあゆはボクチンのカノジョなのじゃ〜〜〜!!!щ( ̄∀ ̄)ш
みんな行ってみそ!行ってみそ! (^O^)/

じゃいコラ!テメーんとこみたいなアングラサイトでこんな書き方しやがったらテメーの同類共が「ここの掲示板を荒らせ」の号令と勘違いするに決まってんじゃねーか!!どうオトシマエつけてくれるんだコラ!!」
「か、香織ちゃん、落ち着いて!落ちついグファッ」喉仏に再びフルスイングの一撃が加わり、ボクは絶句した。それから香織ちゃんは延々五分以上、体力の続く限りボクを殴り続けた。香織ちゃんはゲラゲラ笑いながらラケットを振る。どうやら完全な恍惚トリップ状態に入ってしまったらしい。
「痛い!痛い!香織ちゃん、痛いよ!」とボクは凍り付くように冷たい朝のアスファルトの上を転げ回った。しかしこう言ってはナンだけど、香織ちゃんに殴られるのは正直気持ちよかった。本音を言うと、もう少し殴り続けて欲しかったのだが。残念ながら香織ちゃんの息は切れ、ボクは半死半生で路上に横たわったまま先刻の痛みの快楽の余韻をしばしの間反芻していた。立ち上がる元気すらないのに、股間だけははちきれんばかりに激しく勃起していた。


  香織ちゃんはいつもボクに絶望を与える。ひどい女だと思う。いっそ嫌いになれたら、と思ったこともある。
  しかしボクの身体は、いつの間にか香織ちゃんの与えてくれる絶望の痛みなくしては生きていけないように調教されていたのだった。その事実に、今日ボクは気がついた。ボクと香織ちゃんの新しい関係が、今始まったような気がした。

  そして満面の笑みで路上に横たわるボクを、知らずに通りかかった4WD車が時速60kmで見事に轢いた。
  ボクは薄れゆく意識の中で、何度も香織ちゃんの名を呼んだ。



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