日記抜粋版
ストーカー小説「むちむち☆メモリアル」

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6月9日(金)

第十一話「ブルマde大運動会〜陵辱の果てに〜」


  香織ちゃんが抱えた250万の借金は減るどころか暴利のせいで増えてゆく一方で、今や香織ちゃんは誰の目にも一目でわかるほど痩せこけていた。きっとヤクザからの督促の電話もひっきりなしにかかってきているのだろう。

「香織ちゃん、いよいよお金欲しさに売春始めたそうだね」とボクは言った。だけど香織ちゃんはボクの顔になんて一瞥もくれず「あんたには関係ないでしょ」と簡潔に言った。
「関係なくないよ。今日は香織ちゃん、ボクは客として話をしに来たんだ」
「客として?」
「香織ちゃんの身体、今晩ボクが300万で買おう。それで借金も完済できるはずだ。だからもうこれっきりで、売春なんて馬鹿げた真似はやめると約束してくれ」
「さ、300万…」
  香織ちゃんがわなわなと震えた。さすがの香織ちゃんも一晩300万の条件の前では人の子だ。どうせ好きでもない人間に身体を弄ばれる売春なのだ、その相手がボクだったとしても大した違いはない。香織ちゃんもそのことは充分わかっているはずだ。
「わ、わかったわ…じゃあ、4時にJR改札前で」


  ラブホテルに入るのははじめてだった。
  香織ちゃんは手慣れた手つきで個室のカギを取り出し、ベットメイクのおばさんとすれ違うとき軽く会釈をした。この様子だと相当ここには通いこんでいるらしい。
  部屋は想像していたよりも広く、カラオケとTVゲームまで置いてある。何から何まで童貞のボクには未知との遭遇だった。
「ねえ、先にシャワー浴びてきて…こういう場合、まず男のコが先に浴びるものよ」
  香織ちゃんはベッドの上で色っぽくボクに囁きかけた。
「う、うん。すぐ出てくるから、待っててね」とボクは言い、服を脱いで浴室に飛び込んだ。もうチンチンは張り裂けんばかりに膨張していた。
  ついに、ついにボクは香織ちゃんと結ばれるんだ。多少金が絡んでるとはいえ、それでもボクにとっては好きな女の子を抱けるという事実には変わらない。ボクは香織ちゃんに失礼がないように、頭の先からチンチンの皮の中まで細胞一つ一つに至るまで丹念に洗い上げた。そして結果的に、その時間が命取りになった。

  シャワーから帰ると、香織ちゃんは忽然と消えていた。

  まさかと思って、洗面所のカゴに入れておいたズボンのポケットをまさぐる。悪い予感は的中していた。香織ちゃんはボクの持っていた現金全てとカード類全てをサイフごと奪って逃走したのだ。不法滞在フィリピン人もビックリの売春詐欺だった。
  ボクはすぐさま香織ちゃんの携帯に電話をかけた。
「香織ちゃん!どういうことだよ!」とボクは叫んだ。
「雪男くん、許して…こうするしかなかったの」と香織ちゃんはしおらしく言った。
「こうするしかなかったって、ボクとエッチするって方法があっただろが」とボクは言った。「香織ちゃん、わかってるの?きみのしたことは、立派な犯罪だよ」
「だからね、雪男くん、一生のお願い…キャッシュカードの暗証番号教えて」
  なんてムシのいい女なんだ。ボクは香織ちゃんの身勝手さへの怒りに震え始めた。人のカード盗んで暗証番号わからないから教えてだと?人をなめるのもいい加減にしろ、とよほど怒鳴ってやろうかとも思う。
  だけど、こんなひどい女だけど、ボクは香織ちゃんのことが好きなのだ。愛しているのだ。ここでボクが暗証番号を教えず香織ちゃんを見捨てたら、馬鹿な香織ちゃんはいずれ取り立て屋に捕まって何処かに売られるのが目に見えている。ボクは香織ちゃんをそんな目に遭わせるわけにはいかないのだ。だからボクは最後のチャンスをあげることにした。
「香織ちゃん、よく聞いて。カードの暗証番号のヒントは、ボクの香織ちゃんへの愛の深さだ。よく考えてみて。そうすればおのずと答えは見える」
「アンタの、あたしへの、愛の深さ?」香織ちゃんがいぶかしげな声で聞き返す。
「ボクに言えるのはここまでだよ。後は助かるか助からないかは君しだいだ。健闘を祈る」そう言ってボクは電話を切った。


  あたしへの、愛の深さ?
  香織は焦っていた。聞いた話によると、ATMの暗証番号連続ミスの限度は確か3回。それ以降は何かしら銀行員のチェックが入るはず。捕まってしまったら何もかもおしまいだ。事は慎重に運ばねばならない。
  しかしあのチンカス…雪男、いつ奴の気が変わってカード盗難届の電話を入れられるとも限らない。盗難届が届いた瞬間このカードはただのゴミ屑になる。そうなる前に首尾良く金を引き出さねばならない。悠長に考えている暇もまたなかった。

  香織がまず試したのは免許証に載っていた本人の誕生日だった。しかしこれはハズレ。その後も銀行を変えてはいろいろ試してみたが、全てダメ。そこにかかってきた奴からの電話。番号のヒントは、愛の深さだという。

  愛の深さ…深すぎてウザい愛…ストーカー。

  香織の脳裏に一瞬何かが閃いた。
  そうだ。奴は筋金入りのストーカーだったんだ。香織は再びATMにカードを差し込み、今度は確信を持って番号をプッシュしはじめた。
  0・7・2・1。7/21、つまりあたしの誕生日だ。間違いない、奴は人の誕生日を勝手に暗証番号にしているはず。
  しばしの沈黙の後、ATMは勝利を告げる台詞を読み上げる。

「ご利用金額を入力してください」



  次の日、ボクは通帳から預金残高を調べてみた。
  6/9、引き落とし金額500万。限度額いっぱいまで下ろされていた。
  ボクは香織ちゃんの情け容赦ない仕打ちに涙ぐみながらも、それでも彼女が借金苦から助かったのならと自分を慰めた。そう考えないことにはやっていけそうになかった。



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