5月9日(火) 第十話「女家庭教師〜仕組まれた課外授業〜」 香織ちゃんが今日学校を休んだ。 学校には風邪欠の届けを出していたみたいだけれど、ボクは香織ちゃんが今日休んだことの本当の理由を知っていた。香織ちゃんは子供を堕ろしに行ったのだ。しかもこれで7回目だ。 父親はわかってる。7回全部同じ男だ。ボクのクラス一のモテ男・竹之町くん。「アジアの大砲」とまで恐れられた彼のその20センチはゆうにオーバーした黒光りする逸物が、あの聖母様のような香織ちゃんの身体を汚し、傷つけているのだ。ボクはもう我慢ならなかった。 「で、話ってのはなんだよ。チンカス野郎」 人気のない校舎裏、竹之町くんが不敵にガムをくちゃつかせながら言った。 「覚えがないとは言わせないぞ」とボクは言った。「香織ちゃんのことだ」 「あ?香織のこと?」と竹之町くんは言った。「オメーまだ香織のストーカー続けてたんか。よくやるな」 「とぼけるな」ボクは声を震わせた。「香織ちゃんはもうこれで7回目の堕胎手術だ。いったい君はどこまで香織ちゃんを傷つければ気が済むんだ」 竹之町くんが噛んでいたガムを膨らませた。パンという小気味良い音を立ててそれは割れた。 「だって俺、ゴム付けない派だし」と竹之町くんは言った。「それにだいいち、香織のほうが中に出してってせがむんだもん。妊娠したって自業自得ってやつだろ」 「き、貴様という男は…」ボクはわなわなと震えた。なんてひどい嘘をつくんだこの男は。あの清純な香織ちゃんが自分から「中に出して」なんて言うわけがないではないか。ボクは今、卑劣な嘘をついてこの場を逃れようとする竹之町くんへの憎しみに全身をたぎらせていた。 「竹之町くん…ボクと勝負しろ」とボクは言った。 「あん?勝負?」 「ボクが勝ったら、もう二度と香織ちゃんにつきまとうのをやめろ」 「どっちかっつーとつきまとってるのはオマエの方じゃねえのか」と竹之町くんは言った。「俺はごめんだね。お前みたいなチンカスの相手は面倒くさい」 「逃げるのか」とボクは言った。「これを見てもまだ、勝負しないなんて言えるのか」 竹之町くんの余裕の笑顔が固まった。「て、テメエその写真は」 「そう、君がSMプレイに凝っていた時にボクが隠し撮りした写真だよ。なかなかいい趣味を持ってるじゃないか竹之町くんは。クラスのみんなは何て言うかな」 「ぐっ…わ、わかった、勝負を受けよう」と竹之町くんは冷や汗を拭いながら言った。「で、何で勝負するんだ?」 「ふっ、古来より男二人が女をかけて争うと言ったら方法は一つ。ねるとんさ」 「ね、ねるとんだぁ!?」 「…こんなとこに呼び出して、いったい何よ」 堕胎手術を終えたばかりでどこか顔色の悪い香織ちゃんが校舎裏に到着した。 「いいかい香織ちゃん」とボクは言った。「これからボクたちが一人ずつラブコールと共に手を差し出す。君は好きなほうの手を選び、握るんだ」 「は?」状況をよく飲み込めていない香織ちゃん。 「いいから好きなようにやらせてやれ」と竹之町くん。「お前が俺を選べばすむ話だ。ちょっとだけコイツの戯言につきあってやってくれ。な?」 「?う、うん…」 なにはともあれ、勝負開始だ。 まずは竹之町くんからラブコールだ。 「香織、これ終わらせたらホテル行こうぜ。お前今日堕ろしたばかりだけど口と尻ならできるだろ」 面倒くさそうに手を差し出す竹之町くん。昨日の今日でもうセックスを強要とは。なんて非道い男なんだ。 まあいい。次はいよいよボクの番だ。 「香織ちゃん…君、堕胎手術のお金100万、消費者金融でつまんでるみたいだね」 「!!」香織ちゃんの顔色が変わった。「ど、どうしてその事を!?」 「しかも君、100万も借りてナニしたのかと思えば堕胎のついでに膣縮小術に処女膜再生手術?子供7回堕ろしてるくせに今さら処女膜再生してどうすんだよ」 「ひ、人の勝手でしょ!」と香織ちゃんは叫んだ。 「しかもその借金の返済のためにまた別口で借りてる。これ典型的自己破産パターンだよ?ざっと調べてみたけどもう香織ちゃんの借金250万まで膨れ上がってるよ」 たちまち香織ちゃんが青ざめていくのがわかった。「そ、そんな!すぐ返すつもりでちょっと借りただけなのに!」 「まあ落ち着いて香織ちゃん」とボクは言った。「ボクには君の借金を全て肩代わりし、返済してあげられるだけの力がある。それに引き替えこの男はどうだい?君以外にも彼女は何人も居るは、それに飽きたらずネット電話とやらで毎晩違う女を口説くは。最低じゃないか。君はそれでもまだこんなチンピラ風情のクズが好きだというのかい? さあ香織ちゃん、目を覚ますんだ。今の君に必要なのはモテ顔の男でも巨大な黒チンポの男でもない。経済力のある男だ」 「う、ううっ…」香織ちゃんが頭を抱え込んだ。 ボクは手を差し出したまま叫んだ。「さあ!香織ちゃん!どちらか一人を選ぶんだ!これで全てが終わる!」 香織ちゃんの目線はボクと竹之町くんの手の間を何度もさまよっていた。そうとう迷っているようだ。つまりはボクにも分はあるということだ。 「う、ううっ…」まるでヤクの禁断症状中みたいな声で香織ちゃんが再び呻く。 「さあ!香織ちゃん!どっちを選ぶの!」 香織ちゃんは二、三歩後ずさりした。そしてそのまま後ろを向くと、 「ご、ごめんなさい!!あたしにはとても選べないわ!!」と言い猛スピードで走り去っていった。 後に残されたボクと竹之町くんは虚しく手のひらを差し出したままの姿勢で、ただ呆然とその場にたたずんでいた。 愛を選ぶか。経済力を選ぶか。 香織ちゃんは結局その答えを出すことはできなかったけれど。これってよく考えてみると、女の子の一生のテーマだよね☆ |