9月14日(火) 第一話「愛・ff〜フォルテシモ〜」 「雪男くん、話ってなに?」 ボクのクラス一の美少女・蛆崎香織(うじさき・かおり)ちゃんが伝説の木の下にやってきたのは、約束の時間の十分後だった。 「話というのはほかでもないんだ」とボクはうつむきながらつぶやいた。香織ちゃんがまぶしすぎて、小心者のボクは目をあわせることなんかできやしない。 「実は、ボクとつきあっ」 「イヤ」 「即答かよ!!」 香織ちゃんは「チッ」と舌打ちしながら、もぞもぞとポケットを探った。そして年季の入ったジッポーとマイセンライトを取り出し、おもむろに煙草に火をつけた。 「雪男くんなら、あたしなんかよりもっといい娘がきっと見つかるわ。だから、ね?お互い、いいお友達のままでいましょうよ」 香織ちゃんはやさしくボクに微笑んだ。 「そんな!」ボクは詰め寄った。 「香織ちゃんはボクのこと、嫌いなの?」 「嫌いってわけじゃないのよ」と香織ちゃんは困った顔でまた微笑んだ。 「じゃあボクの何が悪いっていうの?何でも言ってよ、直すから!ボク、香織ちゃんの理想の男になってみせるから!」ボクは哀願した。 「ホントに言ってもいいの?」と香織ちゃんは言った。そして吸っていた煙草を伝説の木にこすりつけてねじ消した。ボクは木が可哀想だな、と少し思った。 「うん、何でも言って。ボクの悪いとこ、このさい全部言ってよ」 「じゃあ言うわね。まず、エロビデオのパッケージでオナニーするのをやめて」 「そ、それは!」ボクは狼狽した。「仕方なかったんだよ!家に一台しかないビデオデッキが、妹が「プライベート・ライアン」見ててふさがってたもんで…仕方なくパッケージで手近に済ませてしまっただけなんだよ!」 「っていうか、そこまでしてオナニーすんなよ」 香織ちゃんがまたマイセンを一本取り出したので、ボクは反射的にライターを差し出した。香織ちゃんは満足そうにボクの火で煙草を吹かしはじめた。 「まだまだあるわよ。次はそうね、あんたのブックマークの半分以上を占める無修正エロサイトの登録を全部消して」 「え、ええっ!」またもやボクはうろたえた。「せ、殺生な!ボクの生きがいを!奪わないでぇ〜!!」 「てめえ何でもするって今言ったじゃねえか」香織ちゃんが火のついた煙草をボクの頬になすりつけた。 「アチぃ!!」 「とりあえずデーマン(注・業界用語で2万円のこと)ばかし用意せえや。積むもん積んだらつきあってやらなくもねえぞ」と香織ちゃんはボクの髪の毛を引っ張りながら言った。 「イテテテテ、イタいっス。イタいっス香織さん」ボクは半泣きで香織ちゃんにすがりついた。 「で?どうすんだ?出すのか出さねえのか」 「出します!出しますから!イテテテテ、やめてください!」ボクは涙と鼻水で前も見えない状態になっていた。 「ウホー、諭吉っつぁんゴッツァリ持ってんじゃんお前」 「あっ、ボクのサイフ!いつの間に!」 「じゃあとりあえず、手付けとしてこれはもらっとくぞ」香織ちゃんはボクの修学旅行の積立金を全部自分のサイフにしまってしまった。 「あーん!ボクの修学旅行費が!かーえーしーてー!」 「ウゼーんだよテメーは」 香織ちゃんがボクの喉笛に見事なハイキックを決め、ボクは沈んだ。そしてそのまま香織ちゃんは行ってしまった。 伝説の木の木漏れ日が横たわるボクにやさしく降り注いでいた。ボクは涙やら鼻水やら尿やら精液やら体中排出液まみれになって、ただ吹き抜ける心地よい風を感じていた。ああ、両親に修学旅行のお金のこと、なんて言おう。 盗られたなんて言えないしなぁ。ここはやっぱり、旅行行ったフリしてごまかすしかないのかなぁ。でも泊まるとこないよ。3日もなにしてりゃいいんだよ。非道いよ、香織ちゃん。 ああ、帰ったらまたリスト・カットだ。いや、その前に、さっき喰らったハイキックで見えた香織ちゃんのパンチラでオナニーしてからだ(←殺しても死なないタイプ)。 |