第十八回
「水の音色と君の長風呂」

  君のお風呂があんまり長いから、僕は君が溺れてるんじゃないかなんて心配になって浴室の扉を開ける。すると案の定、君は顔を半分湯船に沈めて豪快に眠っていた。
「何寝てんだ。風邪引くぞ」と僕は声をかけた。
  君はぱちりと目を開けると「寝てたんじゃないよ」と言った。君の長い髪が湯船にぷかりと浮かんで、まるで海面を漂う海月みたいに見えた。
「こうしてね、耳を湯船につけてるとね」と君は言った。

「水の中って、普段とは違った音の聞こえかたするでしょ。あたしはそれを、水の音色を聴いているのが好きなの」

  そう言って君は再び気持ちよさそうに目を閉じた。

  いま水の中を漂う君の耳に聞こえている音がどんな音なのか、こうして陸の上に突っ立っている僕にはまるで見当もつかないけれど。とりあえず君のその姿は、誰がどう見たって居眠りして溺れてるようにしか見えないよと僕は言った。
  君は湯船のお湯をぱしゃぱしゃと飛ばして僕に攻撃をしかける。
「いつまで覗いてるつもりよ。エッチ」と君は言った。
  溺れてると勘違いされるほうが悪いんだ。なんて捨て台詞を残して、僕は浴室の扉を閉めた。



  女の子のお風呂ってのは、みんなこんなに長いんだろうか。
  それとも君だけが特別なのかな。わかんないや。



→第十九回へ進む
←テクスト集に戻る