さっきから新聞の広告チラシを破いて何をしているのかと思ったら、君は折り紙なんて折っていた。 「こう見えてもあたしん家ってお金持ちでね。毎年ひな祭りには、ユキオ君のこの狭い部屋が半分埋まっちゃうくらい豪華な七段雛人形セットを飾ってたの。でも、あたしはその雛飾りが全然好きになれなかった」 君の細くて綺麗な指が流れるように動き、広告チラシは魔法のようにみるみる形を変えてゆく。 「たぶん、あたしは憎かったんだと思う。あたしの家族は笑っちゃうくらいバラバラだってのに、これ見よがしに仲良く並んでる雛人形たちの姿が。それは見せかけだけが豪華なあたしの家にはあまりにも似合わなすぎたわ」 台所でヤカンが鳴きはじめる。僕はコタツを立ってヤカンの火を止め、ティーパックで紅茶を二人分淹れた。 「それで、折り紙の雛飾りなの?」と僕は紅茶を運びながら言った。 「そう」と君は答えた。そして二体の折り紙細工を掲げて、「できた」と言った。君はそれを本棚の上に並べて置いた。 「ねえ、この部屋にはこんな小っちゃくてへぼいお内裏様とお雛様がお似合いだと思わない? まるでユキオ君とあたしみたいでさ」 そうだね、と僕は答えた。確かにそれは、狭くて汚くてみすぼらしいこの部屋の光景にぴたりと合っているよ。 でも、僕は七段飾りの立派なお内裏様なんかじゃなくたっていい。折り紙だって何だってかまわないんだ。君の隣に並んで座って居られるのならね。 |