第拾参回「車輪の下」
作者あらすじ
ヘルマン・ヘッセ(1877〜1962)

ドイツ・ヴュルテンベルク州カルプに生まれる。15歳の時エリートコースである神学校に進むが六ヶ月で逃亡、以後時計工や書店員などをしながら小説を書く。そんな自身の半生をモチーフにした「車輪の下」は青春文学の金字塔として今も世界中で広く読み継がれている。1946年度ノーベル文学賞受賞。他の代表作は「郷愁」「デミアン」「ガラス玉遊戯」など。
 田舎町で一番の秀才ハンス・ギーベンラートは周囲の期待通りに神学校に入学するが、悪友の影響を受け規律の厳しさに反抗心を募らせる彼は教師と対立し、とうとう学校を辞めてしまう。故郷に帰り機械工見習いとして出直そうとするハンスだったが、田舎暮らしに馴染めず恋にも破れた彼はある日慣れない酒に酔い川に落ち、そのまま帰らぬ人となるのだった。
 そして娘がごく低い声で、
「わたしにキスしてくださらないこと?」
 と、たずねたとき、それははるか遠い夜のかなたから響いて来るように思われた。
 白い顔が近づいて来た。からだの重味で板が少し外にそった。軽くにおう、ほどけた髪が、ハンスの額にさわった。白い広いまぶたと黒いまつ毛におおわれた閉じた目が彼の目のすぐ前にあった。遠慮がちなくちびるで娘の口に触れたとき、はげしい身ぶるいが彼のからだの上を走った。彼は瞬間的にふるえてたじろいだが、娘は彼の頭を両手でつかまえ、自分の顔を彼の顔に押しつけ、彼のくちびるを放さなかった。彼は、彼女の口が燃えるのを、また彼の口をおしつけながら彼のいのちを飲みほそうとでもするように、むさぼり吸うのを感じた。彼はしんからぐったりした。娘のくちびるが離れないうちに、ふるえる快感は気の遠くなる疲労と苦痛とに変った。エンマが放したとき、彼はよろめいて、けいれん的にしがみつく指でかきねにしっかりとつかまった。
「ねえ、あすの晩またおいで」と、エンマはいって、急いで家の中へもどった。


 「車輪の下」は乱暴に要約すると「秀才少年が学校ドロップアウトしてガテン系になって死んじゃう」という、大筋だけ聞くと救いようのない暗い話なのだが、実際の中身は風景や友情や恋の美しさを丁寧に饒舌に描いているわりと楽しい小説だ。日本では特にやおい腐女子に人気がある(親友の男にファーストキスを奪われてしまうのだ!)。が、そんな悪夢のような前半の学校生活シーンは腐女子に任せてとっとと読み飛ばすとして、それより我々が刮目すべきは後半パート、ハンスが学校を辞めて実家に帰ってきて以後のストーリーだ。
 ハンスの初恋の女の子・エンマは3年経って再会するとすっかり大人びた美少女になっていた。純情なハンスはエンマの背中のホックの隙間に見えるうなじ一つでハアハアと混乱。寝ても覚めてもエンマの萌え姿ばかり反芻する妄想君になってしまう。それである日、ストーキングするようにエンマの家を外から覗いているとその姿をエンマに見られてしまう。エンマに逢いたい気持ちから逃げることもできず立ちつくしているとエンマは彼の不器用な好意を感じ取ったのか、手を差し出す。ハンスはその手を握りしめ、やがて自分の頬に当てる。そしてエンマは上の引用文にあるように、「わたしにキスしてくださらないこと?」と言う。これぞ青春、というしかないくらい気恥ずかしいシーンだ。しかしなにげにエンマたん、ウブな少年の遠慮がちなキスに業を煮やして頭捕まえて貪り吸うようなディープキスとは素晴らしい童貞キラーっぷりである。痴女好きの僕には正直辛抱たまらんシーンだ。ここまでされて「あすの晩またおいで」なんて台詞言われたら、もう財布にコンドーム10枚入れてパンツ新品おろしてチンチン超綺麗にして待ちかまえちゃうよな(コンドームなんか使う気ないけど一応)! で次の日ハンスが会いに行くと、エンマは彼の手を引いて暗闇の地下室に連れていくのである!!! きた!! キタコレ!! エロゲフラグ成立的展開キタコレ!!

 彼女は少年の細い顔を両手にはさみ、額や目やほおにキスした。口の番になって、きょうも娘に長い吸うようなキスをされると、少年は目まいに襲われた。彼はぐったりと気力を失って娘にもたれていた。彼女は小声で笑って、彼の耳をひっぱった。
 娘はひっきりなしにしゃべり続けた。彼は耳を傾けていたが、なにを聞いているのかわからなかった。彼女は手で彼の腕や髪やのどや両手をさすり、ほおを彼のほおに、頭を彼の肩にもたれさした。彼はじっと黙ったまま、相手のなすがままにまかせ、甘い戦慄と深い幸福な不安に満たされ、ときどき熱病患者のようにかすかにぴくっとからだを動かした。
「あんたは変な恋人ね」と、彼女は笑った。「なんにもしようとしないのね」
 娘は彼の手を取って、自分のうなじの上や髪の中にやり、それから胸にのせて、からだを押しつけた。ハンスは柔らかい形と甘い異様な波立ちとを感じ、目を閉じ、底なしの深みに沈むのを覚えた。
「よして、もうよして」と、彼は、エンマがまたキスしようとしたとき、拒みながらいった。彼女は笑った。
 そして彼女は彼をそばにひきよせ、腕で抱きしめながら、彼のわき腹を自分のわき腹に押しつけたので、彼は彼女の肉体を感じ、すっかりどぎまぎして、もうなにもいえなかった。
「あんたも私が好きなの?」と、彼女はたずねた。
 彼は、うん、といおうとしたが、うなずくことしかできなかった。そしてしばらくのあいだうなずきつづけた。
 彼女はもう一度彼の手を取り、ふざけながらコルセットの下に押しこんだ。すると彼は他人のからだの脈搏と呼吸とをあつく身近に感じたので、彼の心臓はとまり、死んでしまうかと思うほど呼吸が困難になった。彼は手をひっこめて、うめいた。「もう帰らなくちゃ」

 っておい! 何が「もう帰らなくちゃ」だ!! 前戯を済ませてさあ後は犯るだけ、というこの状況下でこともあろうか「帰る」だと? お前同じことイメクラでやってもらったらいくらかかるか知ってんのか!!(いや、僕も知りませんけど)
 しかしこの童貞キラーことエンマたんの秘奥義「男の手を取ってうなじや髪やおっぱいを触らせる」の破壊力たるや凄まじいものがある。スカウターも計測不能で爆発しかねんほどに萌え。こんなんやられて堕ちない童貞なんぞこの世には存在しないんじゃないだろうか。案の定ハンスもこの小悪魔の魅力にすっかり囚われてしまうのだけれど、この後すぐエンマはさよならも告げずに遠くの実家に帰ってしまう。なかなか手厳しい放置プレイである。上級者向けすぎて童貞にはちょっときつすぎる。ハンスは苦悶にうめき、なんとか仕事に打ち込もうとするがある日仲間と飲んだ帰りに河原に落ちて溺死してしまう。ひどい最後だ。なぜ落ちたのかをはっきり書いてないので、事故死なのか自殺なのかの真相は誰にもわからない。周囲の期待や自意識や社会のルール、そういった諸々にいたいけな若者は潰されて死んでしまうのだという意味を「車輪の下」というタイトルに込めている、とかいかにも読書コンクール受けしそうな解釈もいろいろあるけれど僕はエンマたんとのHを寸止めした天罰だと思っている。寸止めヘタレ野郎なんぞ氏んで当たり前だ! あの世で男とキスでもして腐女子にケツでも掘られてろ!!(そういう同人誌がすでにありそう)
 
萌えパワー読みやすさ総合おすすめ度 まとめ
☆☆☆☆ ☆☆☆★☆☆☆☆童貞キラーに弄ばれたいMな貴方に

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