第拾壱回「砂の上の植物群」
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旅館の一室で、少女は一瞬の間に裸体になった。古い制服を改造したとおもわれる紺色の外出着を脱ぎ捨てると、もう少女は居なくなった。剥き出しになったのは、重たく熟した女の躯だった。 吉行淳之介はえらい美形でホステスのお姉ちゃんなんかにもモテモテだったそうで、妄想でなく実体験でエロを書くという我々非モテの天敵のような作家なのだが、悔しいことに書いてる小説はとても面白い。官能小説スレスレの、というか官能小説としか思えないほどの凶悪なエロさがある。そんな吉行御大が珍しくロリータに手を染めた奇跡の代表作、それが今回の「砂の上の植物群」である(別にテーマはロリじゃないけど)。 さて上の萌え文章を真に味わうために、あらすじを少し補足せねばなるまい。物語序盤で主人公伊木と出会う女子高生・明子。彼女は両親を失い、酒場勤めする父親違いの姉・京子の収入で学校に通っている。口癖のように「女は純潔が大切よ」と言う京子を母親のように慕っていたが、ある機会に明子は京子が見知らぬ男とホテルに入っていくところを見てしまう。明子はそのことに苛立ちを覚え、自分が京子の教え通りに大切にしてきた処女を急に重荷に感じるようになったわけだ。そこに、都合良く伊木が現れた。そして半ば明子から誘うように旅館に入り、慣れた女を装ってこっそり処女を捨てようとするのが上記のシーンである。 身体は大人だとさんざん描いておきながら、「鼻梁の通らぬ、まるい、暢気な、わずかに傾いだ団子鼻」の描写によってまだ顔は子供と匂わせるところがたまらない。しかも鼻をつままれて一瞬楽しくなってしまう無邪気さ、でもすぐに目的(=大人の女と思わせてこっそり処女を捨ててしまう)を思い出して慌てて身体を押しつける間抜けな可愛らしさ。えーと、これはなんていうエロゲですか? 10万くらい出してもいいから欲しいんですけど。 明子の躯に覆いかぶさったまま、彼は片手で明子の顎を掴み、その顔を正面に向け直した。 目の前には裸で淫らに縛られた姉の姿。自分で伊木に「ひどい目に遭わせてほしい」と頼んでおきながら、その「ひどい目」に遭っている姉の姿は自分の考えていたような罰の結果とは大きく異なるものだった(なにしろ姉は自分の意志で、気持ち良いから縛られているのだ)。しかし伊木を駆り立てる衝動は止まらない。淫らに転がった姉の目の前で、明子を自分達と同じ大人の性的ファンタジーの舞台に引きずり上げたい。そんな欲望から伊木は明子を組み伏せ口紅を塗りつけようとする。ここがこの作品のクライマックスであり、一番エロいシーンである。大人の汚れた世界を嫌がる少女に実の姉のM奴隷姿を見せつけ、無理やり口紅を塗りつける。裸の描写一つないというのに、まったくなんてエロさだろうかこのシーンは。ただマンコにチンコを入れるだけがエロではないのだと、吉行御大に叱られているような気さえ僕はする。これからエロを書こうと志す者ならば必ず読んでおいてほしい、そんな小説だ。僕の好みで姉の京子のことはほとんど書かなかったけど、この女もいい感じにエロくて萌えるぞ(縛られた姿を妹に見られるというスーパー羞恥プレイを受けておきながら後日怒るどころか「どうして妹を帰してしまったの」と媚び声で言ってのけるドMです) 最後に吉行の言葉で、僕が一介の文章書きとして共感を覚える一節を紹介したい。 「作者の私としては、実用的な(※つまり、オナニーのオカズ)目的で、部分だけ読まれることに、少しも厭な気持を持たない。 昔、私もそういうことをやってきたことを、懐かしい気持で思い出すのだから。 そして、後年、部分でなくて全体から、新しい発見をしてもらえることがあるかもしれないことを、作者の私は期待しているのである」 これはまさに今僕がこのコーナーでやっている(文学から萌えを探す)ことの作者公認文ではないか。吉行自身が許してくれているのだからこんなに心強いことはない。今回ばかりは堂々と、胸を張って萌え箇所を抜き出させてもらった。そして僕も文章による萌えを追求する者の一人として、この吉行のような矜持を大切にしていきたいと願うばかりである。 ここでもう一度叫んでおこう、 ブンガクでオナニーしたっていいんだって、吉行淳之介も言ってるぞ!!
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