第六回「潮騒」
作者あらすじ
三島由紀夫(1925〜1970)

東京市四谷に生まれる。本名は平岡公威。16歳で「花ざかりの森」を発表。帝大法学部卒業後は大蔵省に入省するも9ヶ月で退職。翌年の作品「仮面の告白」から後は戦後最重要作家の一人として躍進。自衛隊の市ヶ谷駐屯所に乱入し割腹自殺を遂げたエピソードはあまりにも有名。他の代表作は「金閣寺」「サド侯爵夫人」「豊饒の海」など。
 歌島は自然に恵まれた小さな離島。細々と漁師を営む青年・新治は島に戻ってきたばかりの海女の娘・初江と出会い、惹かれあう。嵐の日に焚き火の前で愛を確認しあった二人だったが、噂を聞きつけた初江の父に二人は交際を禁じられてしまう。しかしあわび取りで一番になった初江、台風の海に飛び込み船の命綱を繋いだ新治は最後には周囲に認められ二人は祝福の中で無事結ばれるのだった。
 少女は二三歩退いた。出口はなかった。コンクリートの煤けた壁が少女の背中に触った。
「初江!」
と若者が叫んだ。
「その火を飛び越して来い。その火を飛び越して来たら」
 少女は息せいてはいるが、清らかな弾んだ声で言った。裸の若者は躊躇しなかった。爪先に弾みをつけて、彼の炎に映えた体は、火のなかへまっしぐらに飛び込んだ。次の刹那にその体は少女のすぐ前にあった。彼の胸は乳房に軽く触れた。『この弾力だ。前に赤いセエタアの下に俺が想像したのはこの弾力だ』と若者は思った。二人は抱き合った。少女が先に柔らかく倒れた。

  三島という小説家については僕ははっきり言うと大嫌いなのだが(名前が「ユキオ」なのも個人的にむかつく)、作者がどうこうという話はこの企画とは直接関係ないのでばっさり割愛。ここでは「潮騒」の萌えを簡潔に解説することだけに専念しよう。
  「潮騒」というくらいだから舞台は当然海。主人公は漁師の青年・新治、ヒロインは海女の少女・初江。まあ色々あって二人は惹かれ始め、嵐の日に廃墟の中で裸になって焚き火に当たる上の場面に遭遇するわけだ。この時の初江たんの裸の美しさを描写する三島先生のこだわりっぷりが凄い。オッパイの魅力を文章で語らせたら右に出る者はいないのではないか、というほどにオッパイにこだわっている。後に出てくるこの一連の初江のオッパイ描写を読んでみるといい。

 それは決して男を知った乳房ではなく、まだやっと綻びかけたばかりで、それが一たん花をひらいたらどんなに美しかろうと思われる胸なのである。
 薔薇色の蕾をもちあげている小高い一双の丘のあいだには、よく日に灼けた、しかも肌の繊細さと清らかさと一脈の冷たさを失わない、早春の気を漂わせた谷間があった。四肢のととのった発育と歩を合わせて、乳房の育ちも決して遅れをとってはいなかった。が、まだいくばくの固みを帯びたそのふくらみは、今や覚めぎわの眠りにいて、ほんの羽毛の一触、ほんの微風の愛撫で、目をさましそうにも見えるのである。

  僕もオッパイについてはそれなりに強い思い入れはあるが、ここまで見事に饒舌に魅力を語りきる自信はさすがにない。よく言ってくれた三島先生、というより他に言葉がない。まあ三島先生は女のオッパイだけが好きというわけではなく、マッチョの肉体美なんかも愛してらっしゃったようなのだがそれはどうでもいい。とにかく今はオッパイだ。オッパイマンセーだ。
  で、焚き火のシーンに話を戻す。新治がにじり寄ろうとすると、裸の初江はそれに合わせて炎をへだてて逃げる。汝も裸になれ、そしたら恥ずかしくないから、と言って初江は新治にも裸になることを要求する。そしていよいよ後がなくなって最後に言うのだ、「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」。そして新治は炎を飛び越し初江を捕まえ、抱きしめる。このシーンはあまりにも美しく、あまりにも文学的で、そしてあまりにも萌えだ。「その火を飛び越して来たら」、とあえて中途半端な形で台詞が切れているところも深い。その後に続くはずだった言葉は何なのだろう、と思わず考えさせられてしまう。この台詞についてはいろいろな解釈が許され、いろいろな萌え方が許されそうだ。
  でまあ裸になって抱きしめ合ったのだから、その後は当然エッチな展開が待っているはず…とわくわくして読み進めると、なんとヘタレの新治は初江の「今はいかん。あんたの嫁さんになることに決めたから、それまではいかん」という言葉を真に受けて続きをやめてしまうのである! なんだよ寸止め!? おいおい結局ラブひななのかよ!

萌えパワー読みやすさ総合おすすめ度 まとめ
☆☆☆★ ☆☆☆★☆☆☆☆オッパイ星人にとってのバイブル的傑作

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