Though I know I'll never lose affection
失ってしまうことなんて決してありえない

For people and things that went before
過ぎ去って行った人々や物事への思慕の念を

I know I'll often stop and think about them
時には立ち止まり想いを馳せることもあるだろう

In my life, I love you more.
でもいま僕はこの人生で出会った他の何よりも強く深く、
君を愛している

“In My Life" The Beatles






■あとがきにかえて■


 この物語を書いていた2007年の途中に結婚という個人的なイベントを済ませた僕は、今年(2008年)の冬にとうとう嫁を帯広まで連れていくことになってしまった。
 嫁は墓前でこそ神妙な顔で手を合わせてはいたものの、帰りのバスの中ではもう北海道お土産マップを広げぶつぶつと何か唸っていた。それで僕は今までの十回に及ぶ旅で一度も観光らしい観光をしていなかったことを今さらながら思い出して、初めて十勝名物の温泉やらワイン工場やらを嫁と一緒に色々回ることにしたのだった。
 ホテルの夕食の席でミユキが苦手だと言っていたチーズをワイングラス片手に頬張り、おいしいねえおいしいねえと繰り返す嫁を見て、僕は不意に喜びと悲しみの入り混じったような複雑な感情を覚えた。この十年で失ったものと新たに手に入れたものがそれぞれあまりに大きすぎて、自分でもまだ完全には整理しきれずにいるせいだろう。

 今年、僕は31歳になる。21歳の僕が想像していた未来とはずいぶん違うところに辿りついてしまった気もするけれど、それなりに明るく楽しく暮らせてはいるのでまあ、これでもいいかとしぶしぶ納得するようにして、いま僕は毎日を過ごしている。
 今の僕をミユキが見て何と言うのかはわからない。変わらないねと言ってくれるだろうか。もしかしたらおっさん臭くなった、と笑われてしまうのかもしれない。でもそれは反則というものだろう。ミユキはいつまでも21歳のままかもしれないが、僕は歳を取らないわけにはいかないのだ。嫌でも変わっていかざるを得ないのだ。

 この世界には、確かなものなんて何もない。それが十年前の僕が辿りついた、一つの真実。
 でも自分自身がそれを確かなものだと信じることで、愛することで、はじめて確かなものへと「変えていく」ことができるのだ。今は、そんな風に思っている。




 最後に蛇足ながら、ひとつだけ。この物語は基本的には僕の体験に基づいた自伝であり実話だが、舞台や時系列や登場人物の名前など部分部分にフィクションがある。これは物語をある程度エンタテイメントとして盛り上げるためと、僕と僕のかつての友人知人たちの個人情報を特定されないためのやむを得ない処置ということで、お許し願いたい。
 作中の出来事が具体的にどこからどこまで事実でどこからどこまでフィクションか、についてはこれは秘密ということにしておきたい。別に意地悪したいわけではないのだが、わからないほうが面白いと僕が思っているからだ。後日訊かれたとしてもはぐらかして煙に巻く気満々でいるので、悪しからず。

 読んでくれて本当にありがとう。それではまたいつか、別の物語で。

2008/3/1 雪男 拝



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