Would you hold my hand if I saw you in heaven?
もしも天国で会えたなら、君は僕の手を握ってくれるかな

Would you help me stand if I saw you in heaven?
僕が立ち上がるために力を貸してくれるかな

I'll find my way through night and day
でもいつか僕はすべてを乗り越えて、
自分の道を見つけてみせるよ


'cause I know I just can't stay here in heaven.
だって僕は天国になんていられるような男じゃないから
“Tears in Heaven" Eric Clapton

■第十九章(1999.February)5■

 帰りの小田急線で、僕の前に座っていたサラリーマンが「良かったら」と席を譲ってくれた。
 よほど酷い顔をしていたのだろう。実際に僕は憔悴しきっていたので、礼を言ってありがたく座らせてもらった。

 これからもよろしくね。愛してるよ。

 結局、ミユキが生きている間には一度も言われることのなかった言葉。これから先の人生全てをかけても、もう二度と聞くことはできないだろうと思っていた言葉。それをこんな形で、全てが終わった後で聞かされることになるなんて。遅いんだよ、と僕は心の中でつぶやいた。
 もう遅いんだよ。今更そんなこと聞かされたって、返事なんかできないじゃないか。僕が君をどれだけ愛していたのか、僕の愛が君の愛なんかよりどれだけ大きく重いものか、思い知らせてやることもできないじゃないか。最後に言い逃げなんて、ずるいんだよ。
 憎しみと愛情と怒りと慈しみと後悔と充足と悲しみと喜びとが入れ替わるように僕の心の色を塗り替えていき、僕は電車の中で混乱する頭を抱え続けた。




 家に帰ってまたすぐ布団に飛び込み、天井を見つめながら僕はミユキの姉の言葉を思い出していた。

 どうかあの子の分まで生きて、幸せになってください。他の誰かを幸せにしてあげてください。

 でも僕には「他の誰か」なんて思いつかなかった。一人として思い浮かばなかった。ミユキの他に僕が幸せにしたいと思う人間なんて誰もいなかった。 アオヤマにクボタという親友さえも僕のせいでみんな失ってしまったというのに、いまさら誰かと深く関わりあおうだなんて思えるわけがなかった。
 ―――そういえば前にも一度、ミユキに向かって似たようなことを口にしたことがあったような気がしたな。
 僕は泥水の中のガラス玉を手探りで拾うように、記憶の片隅に埋もれていたその言葉を救い上げた。あれは確かそう、去年のクリスマス…

『さやさんは美人だとは思うけど、でもつきあいたいとは全然思ってない。さやさんだけじゃない、僕にはいま君以外の他の女の子とつきあいたいという気持ちはないんだ。はっきり言わないでいてごめん』

 さやさん?
 そこで僕はようやく、先日さやさんと交わした約束を思い出した。ここで名前が引っかかってこなければ完全に忘れているところだった。
 「ネットを見てみろ」、だったか。
 僕は疲弊しきった身体をなんとか起こし、二週間ぶりにPCの前に腰掛けた。紅茶の準備はしていなかったが、まあそれはいいだろう。どうせもうネットサーフィンなんて、二度と楽しんではできやしないだろうから。
 メーラーはもうとっくに削除してしまっていたが、almailはフリーソフトでしかも設定も簡単なので再度インストールして受信を始めるのに五分とかからなかった。受信をしている間に掲示板を見てみようと思ったが、 お気に入り登録をしていなかったのでHDD内に残っていた自サイトの旧トップページのHTMLファイルをオフラインで開いてそこから飛んだ。

 そこには僕が予想もしていなかったものが残っていた。


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